ちょっと自虐的なユーモアがいい(65点)
全編にレトロ・モダンな雰囲気が漂う、異色の青春映画にして文芸映画だ。終戦を迎えた年、結核を患う少年・利助は、風変わりな療養施設・健康道場に入る。患者や看護婦を互いにあだ名で呼び合うその場所で彼は“ひばり”と呼ばれ、看護婦の竹さんやマア坊、同じ病を患う仲間と過ごすうち、少しずつ希望を見出していく。
2009年は太宰治の生誕100年に当たるが、この原作は珍しく明るくポップな小品だ。それでも太宰タッチは健在で、主人公のひばりは、神経症でナルシスト、他人を冷めた目で見下すくせに、自分自身は傷つきやすい。映画は、ひばりが年上の親友で詩人のつくしに宛てた手紙を上手く使った構成が効いていて、時に自意識過剰なひばりの言動をコミカルに見せることに成功している。「頑張れよ」「よしきた」という決まり文句の合言葉も楽しいもので、耳に心地よいリズムとなって残る。「新しい男」になると決意しながら、新しさの定義に悩むといった、軟弱なインテリならではのおかし味など、ちょっと自虐的なユーモアがいい。映像は非常に丁寧で美しく、古い木造の建物や不思議な習慣の道場での衣食住など見応えがある美術も魅力だ。新人の染谷将太や芥川賞作家の川上未映子を起用するなど、異化効果を狙ったユニークなキャスティングが目を引く。小悪魔的な魅力の仲里依紗の光る金歯と、川上未映子の妙にどっしりした存在感が印象的。彼女たちの生命力がパンドラの匣のスミっこにある希望なのだ。
(渡まち子)