パンズ・ラビリンス - 福本次郎

◆人間の心に息づく自由と豊かな暮らしへの憧れ。そして、独裁者と戦うには誘惑に負けない意思と自己犠牲をいとわない勇気が必要であることを訴える。しかし、少女を試すのにどうしてこれほど回りくどい方法をとるのだろうか。(40点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 人間の心に息づく自由と豊かな暮らしへの憧れ、それはおとぎ話の中でしかかなえられなかったという独裁政権下の現実。抑圧からの解放を目指して軍事政権に対してゲリラ戦を挑む反政府軍の理想の楽園は、少なくとも当時は空想世界にしか存在しないものだったと少女の目を通して語る。そして、独裁者と戦うには誘惑に負けない強い意思と、仲間のためには自己犠牲をいとわない勇気が必要であることを訴える。しかし、それにしては少女の心を試すのにどうしてこれほどまでに回りくどい方法をとるのだろうか。

 1944年、内戦下のスペイン、オフェーリアは母の再婚相手であるビダル大尉が指揮する山岳地域の砦に向かう。そこは反政府山岳ゲリラの拠点。冷酷なビダルの前でオフェーリアは生活になじめずにいたが、ある日オフェーリアの元に妖精が現れ、地下の王国に通じる迷宮に案内するが、そこにはパンという異形の番人が待っていた。

 オフェーリアはカマキリのような妖精もパンも巨大カエルも目無し男も、その外見だけで決して恐れたりしない。むしろ冷酷なビダルに対して恐怖を抱いている。彼女にとって山での生活そのものに居場所がなく、そこから連れ出してくれそうなもの何でもマシに見えたのだろう。パンに唆されたとはいえ、積極的に地下王国の王女になろうとしているのは、少女なりに独裁政権への嫌悪感が強かったのだろう。映画で語られてはいないが、実の父は反政府指導者で官憲に殺されていたとか。

 つまり、おとぎ話の地下王国は反政府ゲリラが目指す自由で豊かな理想の国で、案内人であるパンは現実世界でオフェーリアと心を交わす女中・メルセデスと表裏一体の関係と解釈すべきなのだろう。だからこそオフェーリアは反政府の闘士としての資質を問われるような試練を受ける。結局、彼女はこの試練を乗り越え地下王国、つまり反政府軍に将来のリーダー候補として迎え入れられる。しかし、独裁が終わるのは30年以上も後のこと。彼女は無事フランコ時代を生き延びたのだろうか。それにしても内戦の生々しさとファンタジーは相容れない要素だった。

福本次郎

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