パレード - 山口拓朗

◆閉塞したビターな時代の膿をかき出すような鋭い刃をもった社会派作品(65点)

 映画会社に勤める健康オタクの直樹(藤原竜也)、酒好きな自称イラストレーターの未来(香里奈)、恋愛依存のフリーターの琴美(貫地谷しほり)、先輩の彼女に思いを寄せる大学生の良介(小出恵介)の4人はマンションの一室をシェアして生活していた。そこにある夜から、男娼のサトル(林遺都)までもが居着くようになる。リビングに置かれたテレビは、連日、そんな彼らが住む町で多発している女性を狙った無差別暴行事件のニュースを流していた……。

 人と人との距離感をどの程度に保つかは、ドラマを紡ぐうえでとても重要だが、時代を切り取る俊英、吉田修一の同名小説を原作とする本作「パレード」は、人と人との距離感“そのもの”を描いた作品といえる。隣人の顔さえ知らない人も少なくない都会において、マンションの一室で身を寄せ合うように暮らす若者たちの光景は新鮮だ。とくに仲がいいというわけではないが、かといって、仲が悪いというわけでもない。部屋のなかには“平穏な空気を乱さない”とう不文律、暗黙の秩序だけが存在する。誰もが自由に使えるリビング&ダイニングはその象徴だ。

 仕事に行った。学校に行った。アルバイトに行った。そのあたりまでが、彼らがほかの同居人について知っているギリギリのラインだ。5人はそれぞれに憂鬱や不安や傷を抱えている。だが、この部屋の不文律は、住人が「ヘルプ・ミー!」と声を上げることを許さない。「ここってインターネットでいえば、チャットや掲示板みたいなもんだから。嫌なら出ていけばいいし、居たいなら笑っていればいいみたいな」という乾いた琴美のセリフが、彼らのルームシェアの実態を雄弁に物語っている。

 部屋の空気をさざ波立てることをヨシとしない不文律がもたらす結末は、衝撃度の大きいクライマックスが一手に担う。そこから続くラストシーンでは、カメラがある者の表情を不自然なほど長く抜き続ける。不気味な演出に不気味な空気感。あるいは、そこに少したりとも不気味さを感じないとしたら、それはこの物語が示唆する「人間同士の距離不全」をすでに体現している人かもしれない。

 人間ドラマとミステリーの両面から観客の興味を引く本作「パレード」は、モラトリアムをテーマにしたお気楽で甘酸っぱい群像青春映画ではない。閉塞したビターな時代の膿をかき出すような鋭い刃をもった社会派作品だ。「描くこと」よりも「描かないこと」に心をくだいた行定監督の絶妙采配、そして、これまでのイメージを覆す演技で存在感を示した林遣都を含めた5人の「見せる」ではなく「漂わせる」演技を評価したい。

山口拓朗

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