パブリック・エネミーズ - 小梶勝男

◆実在の銀行強盗ジョン・デリンジャーをジョニー・デップが演じるアクション。恋人ビリーとのロマンスやFBIとの戦いが実録タッチでテンポよく描かれるが、主人公が魅力に乏しい(67点)

 とてもいい場面があった。逆光の中で、撃たれた男の最後の息が一つ、闇の中に白く浮かび上がる。それきりで白い息はとだえ、男が死んだことが分かる。マイケル・マン監督らしい、凝った映像だった。この白い息の鮮明さは、デジタルならではだろう。

 「コラテラル」を全編デジタル撮影したマンは、今回もデジタルキャメラを採用している。顔のアップを多用し、それを手持ちキャメラで追うことにより、独特の雰囲気が出ている。闇の映像が多い本作では、デジタルのいい点も欠点も分かる。デリンジャー一味の隠れ家をFBIの捜査官らが急襲する場面に顕著だ。闇の中でも輪郭がはっきりとしている一方で、暗い部分の画質が気になる所もあった。だが、映像についてはデジタルの良さの方が目立っていると思う。当時を忠実に再現したという美術や衣装は素晴らしい。物語も実録タッチでテンポよく進む。

 だが、それだけなのだ。本作には「仏作って魂入れず」といった印象がある。名優ジョニー・デップが演じたにもかかわらず、ジョン・デリンジャーがただのヒーローにしか見えない。キャラクターに奥行きがないのである。実在のギャングを描いた伝記映画なので、主役に魅力がないと面白くならない。

 もちろん、ジョニー・デップはカッコイイ。スーツにコートでビシッと決め、マシンガンを撃ちまくる姿は、実に絵になっている。恋人ビリー(マリオン・コティヤール)を口説くセリフも洒落ていた。外見上はとても魅力的だ。しかし、その人間性は余り伝わってこない。マンは事実を忠実に描こうとする余り、真実を描くフィクションの力を見失ったのではないか。

 舞台は1933年、大恐慌の時代。銀行強盗を繰り返すデリンジャーはそのカリスマ性で市民のヒーローとなっていた。シカゴのバーでデリンジャーは美女ビリーに出会う。翌日、仕事中のビリーを強引に口説いて連れ去ってしまう。一方、FBIはデリンジャーを「社会の敵(パブリック・エネミー)ナンバー1」として、逮捕を公言。腕利きの捜査官メルヴィン・パーヴィス(クリスチャン・ベイル)を捜査に当たらせる。メルヴィンのチームによって、デリンジャーは徐々に追いつめられていく。

 本作には二つの柱がある。一つはデリンジャーとビリーとのラブ・ロマンスで、もう一つがデリンジャーとメルヴィンとの男同士の戦いだ。恋愛の方はいかにもメロドラマ。ビリーの母親がインディアンであるという設定が、デリンジャーとの運命を感じさせるが、その辺りは踏み込んで描かれていない。男と男の対決はマンの得意とするテーマだが、こちらも今ひとつ。デリンジャーとメルヴィンとの間に、響き合うものがほとんどないのだ。ロマンスと男の戦いと、どちらか一方に絞れば良かったと思う。

 同時期の公開で実在の「パブリック・エネミー」を描いた映画としては、「ジャック・メスリーヌ」2部作がある。あちらは2部作合わせて4時間。こちらは2時間半近く。どちらも長い時間をかけてギャングの半生を追っている。私の判定は、「ジャック・メスリーヌ」2部作の勝ち。あちらの主人公の方が複雑で面白かった。デリンジャーを扱った映画としては、ジョン・ミリアス監督の「デリンジャー」(1973)に遠く及ばない。

小梶勝男

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