パブリック・エネミーズ - 山口拓朗

◆デリンジャーを義賊たらしめている根源的な動機が見えない(60点)

 大恐慌時代(1930年代)に実在した伝説のアウトロー、デリンジャーは、大胆不敵な銀行強盗であると同時に、強者をくじく義賊的存在として国民から英雄視された人物。そんなカリスマ犯罪者の逃亡劇に加え、美女ビリーとのロマンスをシリアスタッチで描いた作品だ。

 ジョン・デリンジャー(ジョニー・デップ)は、逮捕されては脱獄をくり返していたが、弱者からは金を奪わないという独自の美学を貫く姿に、アメリカ国民は拍手喝采した。ある日、デリンジャーは美女ビリー(マリオン・コティヤール)と運命的な恋に落ち、警察から身を隠しながら生活を共にするようになる。一方で捜査当局は、デリンジャーをアメリカ初の「社会の敵ナンバーワン(Public Enemy No.1)」として指名手配。メルヴィン・パーヴィス捜査官(クリスチャン・ベイル)の指揮のもと、徹底した追跡捜査を開始する。

 デリンジャーは、政府や警察、銀行といった権力全般に容赦なく盾つくが、一般市民を巻き込む犯罪には手を染めない。計画力、実行力、統率力など、あらゆる面で優れた才能を誇る彼は、悪党仲間からも一目置かれている。嘘は言わない。裏切りは許さない。仲間を見捨てない。日本の"任侠道"にも通じる彼の生き様に、ほれぼれする観客も少なくないだろう。

 ただし、デリンジャーという人物が十分に掘り下げられているかは疑問だ。行動から彼の生き様のアウトラインを読み取ることはできるが、彼を義賊たらしめている根源的な動機が見えないため、「上っ面なヒーロー像」に魅力は感じても、根っこにあるはずの「本質的な何か」に共感することができない。そのうえ<強盗→逮捕→脱獄>というリピートは、起伏に富んでいるようでいて実はその逆で、ややもすると眠気すら誘うほどの一本調子だ。ビリーとのロマンスも然り。やはりそこでも「本質的な何か」が欠けている。

 "目で語る"ことができる希有な俳優ジョニー・デップのクールな演技は、いつにも増して女性客をとりこにしそうだ。一方、パーヴィス捜査官に扮したクリスチャン・ベイルのポーカーフェイスな演技も魅力的だが、デップのスマートさが際立ちすぎているため、敵役としてのキャラクターが中途半端なものになってしまった。あるいは、パーヴィス捜査官の視点から、デリンジャーの「孤独」や「哀しみ」を浮かび上がらせるような演出があってもよかったように思う。

 随所で展開される銃撃戦の安定感は、百戦錬磨のマイケル・ベイ監督ならでは。それ以上に目を引いたのが、1930年代の雰囲気を充満させた絵づくりの巧みさだ。ホテル、タクシー、ファッション、飛行機、銀行……等々、時代考証に優れたそれらは、ロケーションから小物に至るまで、物語に説得力を与えるうえで十分なリアリティを手に入れている。それだけに、掘り下げの甘いキャラクター設定と単調なドラマが悔やまれる。素材も上質で盛り付けの雰囲気もいいのに、手放しで「おいしい!」と言えない料理を口にしたときのような複雑な心境だ。

山口拓朗

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