最初は政府に対する明確な「NO」の意思表示。やがてテロリストの目的は勝利ではなく、テロ行為そのものとなる。放火、強盗、誘拐、暗殺・・・凶悪犯罪を繰り返し警察に追われることに一種のカタルシスを覚えているかのようだ。(70点)
戦争も抑圧もなく、誰もが自由で満ち足りた人生を送れる社会。しかし、そんなものは理想に過ぎないと分っている。最初は米国の帝国主義とそれにおもねる西ドイツ政府に対し、明確に「NO」と意思表示しなければファシズムに逆戻りするかもしれないという危機感。やがてテロリストの目的はもはや勝利ではなく、テロ行為そのものの繰り返しとなる。放火、強盗、誘拐、暗殺・・・凶悪犯罪を繰り返し警察に追われることに一種のカタルシスを覚えているかのようだ。
左翼系ジャーナリスト・マインホフは、ベトナム戦争に反対するためにデパートに放火したバーダーとその恋人エンスリンの逃亡を助けて反体制活動家となる。彼らはメンバーを募りRAF(ドイツ赤軍)を結成、武装闘争を始める。
爆弾を仕掛けるとき、拳銃の引き金を引くとき、銀行に押し入るとき、感情を盛り上げる演出は一切なく、カメラはただ彼らの行動を客観視する。唯一、ガレージに追い詰められ警官隊に包囲されたバーダーが仲間と目を合わせて、「明日に向かって撃て!」のラストシーンのような表情を見せる。バーダーはおそらく若者らしい青臭さで、劇的な死に方を望んでいたはずだ。現実はあっけなく逮捕され、投獄されてしまうのだが。
マインホフにとって、家族を捨ててまで身を投じたこの戦いは勝たなくては意味のないもの。RAFが無差別殺人集団に堕ち、民衆の支持を失っていく過程で絶望する。一方のバーダーたちは派手に殺されて時代のアイコンとして大衆の記憶に残りたかったのだろうが、法廷を侮辱するくらいしか許されないわが身に絶望する。この2人の「絶望」の根本的な違いが、革命に対する温度差。生きようとした者も死に場所を探していた者も、同じく獄中で自ら命を絶つ。結局RAFの敗因は、革命が必要なほど西ドイツ人民は自由に飢えていなかったという事実だ。個室にテレビ、受刑者同士の会話という刑務所での彼らの扱いが、’70年代の西ドイツの居心地の良さを象徴していた。。。
(福本次郎)