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◆凝った構成と完璧な脚本の政治サスペンス(95点)
スカッとしたい2009

 冒頭、いきなりアメリカ大統領がスペインの大群衆の前で狙撃される。ほぼ同時に大爆発も起こり、集まった人々はパニックに。全力ダッシュで始まり、ペースを落とすことなくそのまま90分間駆け抜ける、大興奮サスペンスアクションの登場だ。

 テロ撲滅の国際サミットのため訪れたスペインのサラマンカの広場で、米大統領が何者かに狙撃される。大混乱の中、ベテランシークレットサービス(デニス・クエイド)は居合わせた観光客(フォレスト・ウィッテカー)のビデオカメラやテレビ局の中継車をチェック、そこに驚愕の真実が写っていることに気づき、追跡を開始する。

 これぞまさに映画、凝りに凝った構成だ。

 大統領暗殺にいたるまでのシークエンスは、捜査官や観光客、犯人など8人の視点で8回繰りかえされる。そのつど時間は巻き戻され、少しずつ新たな事実が明らかにされ、観客は真相に近づいていく。

 それぞれのパートはかならずクリフハンガー(先が気になる、一番いいところで終わってしまう形)で区切られる。そのため、観客はあたかもクライマックスが連続しているような感覚に陥る。

 ひとつの事柄が、見る角度により別のものに見えてくる。ある事実を知った後には、同じ出来事がより大きな意味を持っていたことに気づく。まったく無関係と思われる登場人物たちは、そのじつそれぞれが確固たる存在理由を持って配置されており、すべてが明らかになる最後の瞬間には、大きな感動と満足感が訪れる形になっている。

 まさに神の采配、よくできた脚本だ。私は終わった後、思い出せる限りの細部を検証したが、憎らしいほど整合性が取れており、アラを見つけることはできなかった。

 また、政治映画として特筆すべきは、現在アメリカが遂行中の対テロ戦争の正体が、"基軸通貨としてのドル防衛戦争"であることを何気なく伝えている点(デモ群集のプラカードに注目)。同時にアメリカの大統領についても、決して最高権力者ではなく、ある種の傀儡であると、当の大統領の口を借りて名言している。

 かつてのタブーが、この手の娯楽サスペンスでここまで普通に語られるということは、アメリカの国民の間にそうした常識、共通認識が生まれつつあるということで、とても興味深い。

 こうなると、今年中にもアメリカが起こすと噂される対イラン戦争は、これまでのような明白な茶番劇にはなるまい。さすがのお気楽アメリカ人も、もう簡単には騙されないだろうから、より複雑なシナリオが構想されているはずだ。米軍自ら手を下すという形も、今後は取らないかもしれない。

 話は戻って『バンテージ・ポイント』だが、"ひとつの物事を多視点で繰り返すサスペンス"というのは、黒澤明監督の『羅生門』(50年、日)にヒントを得ている。最近、日本ではクロサワ映画のリメイクが話題になっているが、本来古典とはこのような形で蘇らせてこそ、ではないだろうか。リメイクばかりで進歩がないといわれる現在のアメリカ映画界でさえ、こうした形でちゃんと過去の文化遺産を発展させた凄い作品を出してくる。大いに見習うべきではないか。

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