バンコック・デンジャラス - 佐々木貴之

◆人間的魅力を描いている点は大きく認めたい(70点)

 パン兄弟(オキサイドとダニー)が撮り上げたタイ映画『レイン』(00)を、設定に変更を加えてハリウッドでセルフリメイクしたハードボイルド系サスペンス・アクション。

 自身が決め込んだルールを忠実に守り、完璧に任務を遂行させてきた冷酷無比なスゴ腕暗殺者ジョー(ニコラス・ケイジ)。彼は稼業に真の引き際を悟り、最後の任務として四つの暗殺依頼を引き受け、タイはバンコックへと赴く。現地でスカウトした助手コン(シャクリット・ヤムナーム)とともに三つの暗殺を何とか成功させてきたジョーが、最後の四つ目の任務でピンチへと追い込まれてしまう。

 パン兄弟はハリウッドのカラーに染まることなく、持ち前のカラーを存分に発揮させて本作を完成させた。タイでのオールロケで街の魅力や文化をしっかりと取り入れ、ハリウッドを利用してこの国の素晴らしさをしっかりとアピールしている感じがしてやまない。特に、夜の街並みの活写はインパクトが大きくて印象的だ。猥雑な街という設定を活かせて不健全な雰囲気を漂わせながらも魅力的に描ききっている。他にも照明を巧妙に利用してのスタイリッシュな映像美が殆どのシーンを彩っていたりというように、パン兄弟のハイクオリティな映像センスが伺える。

 ジョーがコンを従来通りの利用するだけ利用して殺してしまうようなインスタント助手としてではなく、正式な弟子として鍛え込み、二人で訓練をするシーンや聾唖の女性薬局店員フォン(チャーリー・ヤン)との淡い恋愛感覚のような交流を描いたシーンが、ドラマ描写における見所として印象深い描き方となっており注目度が大きい。特にフォンとの関わりからは、足を洗おうとしているジョーが笑ったり彼女に優しく接することによって、冷徹な男が人間らしさを取り戻しているような感じで好感を抱いてしまう。ジョーを単に血も涙もない暗殺者として描かず、人間的魅力を描いている点は大きく認めたい。ジョーがピンチに立たされてからは苦悩させられたりするなど、悲哀感を漂わせて描かれていく。これが、スゴ腕暗殺者として生きてきた男が引退目前に曝け出してしまう人間としての、暗殺者としての弱さやマイナスポイントを浮き彫りにしている。

 中盤以降は、アクション映画としての見せ場もしっかりと用意されており、ここでハリウッドの力が発揮される。まずは水上マーケットでのボートチェイスが観られる。ボートチェイスも今となっては珍しいモノではないが、従来のモーターボートではなくて勢い良く疾走するイメージとは程遠い木造ボートを利用しているのがミソであり、これを勢い良く走らせてスリリングに描き、スピード感を味わわせてくれるのだから目新しく思えると同時に面白さも味わえるが、満足できるほどの面白さとまではいかない。そして、クライマックスでは銃撃戦が繰り広げられ、照明を巧みに利用してヴィジュアル重視の一味違ったアクションシーンとして仕上がった。このような趣向を凝らす等の努力は認められるもののこれによって迫力や面白さが薄れてしまっているので残念だ。だが、アクションにしてもサスペンスにしても緊張感を維持させて丁寧に描いているのでそのポイントはかなり高い。

 そして、衝撃的なラストシーン。ジョーは任務を遂行して無事に引退できるのか? それとも、任務をミスして滅びてしまうのか?

 本作は、まさにハリウッド製タイ映画だ。

佐々木貴之

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