◆豪華キャストが勢揃いした贅沢なアンサンブル・ムービー。すべてが薄味だが楽しい作品になった。(60点)
2月14日のロサンゼルス。恋人にプロポーズした青年、高校生のカップル、なぜかバレンタインデーが大嫌いな美人パブリシストなど、さまざまな年齢の男女がいた。バレンタインデーの24時間に生まれる彼らの愛の行方とは…。
この映画は、いわば何種類ものプチケーキの詰め合わせのようなもの。一つ一つは小さくてちょっと物足りないのだが、色々な味を楽しめるのが嬉しい。「プリティ・ウーマン」の監督として知られるゲイリー・マーシャルは、人呼んでキング・オブ・ラブコメ。恋愛映画の名手なのだが、有名俳優たちを贅沢に集めた群像劇は、さすがに大変だっただろう。しかもエピソードは少しずつつながっていて、意外な人物相関があったりする複雑な脚本だ。それでも、ただ甘いだけではなくビターな局面もしっかり描いて、大都会LAに暮らす人々の、ささやかな、でも大切なストーリーを丁寧に紡いでいる。
物語は、花屋のオーナーである青年リードがけん引する形だ。彼自身の恋の顛末を軸にして、完璧なバレンタインデーを求める老若男女の奮闘が描かれる。付き合い始めて2週間のカップルに長年連れ添った熟年夫婦、初恋の人に花を贈ろうとする小学生もいる。思わぬ出会いと苦い別れ。リードの花屋の注文には、そんな愛のアレンジメントがたくさん並べられていて、リード自身がとまどい気味だ。でも、自分が最も信頼している女友達で小学校教師のジュリアが嘘つきの恋人から傷つけられることだけは、黙って見過ごすことはできない。「ジュリアはとってもいい子なんだ。まるで太陽(サンシャイン)みたいな子なんだよ!」。思わずそう叫ぶリード。これが映画のエッセンスになっている。バレンタインデーとは、自分にとって本当に大切な人を見極める日なのだ。
主役クラスのスターたちが次々に登場するエピソードは、軽く10を超える数だ。すべてがハイ・クオリティとは言えないが、共通しているのはみんな小さな驚きがあること。アン・ハサウェイが演じる魅力的な女性リズには秘密の副業があり、シャーリー・マクレーン演じるエステルはよりにもよってバレンタインデーに何年も隠してきたある秘密を夫に告白する。だが観客にとって、最もすてきなサプライズは、飛行機の中で乗り合わせた、ジュリア・ロバーツ演じるケイトとブラッドリー・クーパー演じるホールデンのそれだろう。11ヶ月ぶりの休暇でLAに戻る軍人のケイトは、恋の悩みを抱えるホールデンと互いに意気投合するが、LAにはそれぞれ大切な人が待っていた。このエピソードのオチはちょっと意外なものなのだが、とても気が利いていて上手い。
バレンタインデーは、ロマンティシズムと商業主義が完璧に結び付いた特別な日だ。劇中で描かれる、花とチョコで彩られたエピソードの中に、きっと自分自身の物語が見いだせるはず。日本では、女性が愛の告白のためにお菓子業界の罠にハマッている状態だが、アメリカでは、チョコレートより花の役割が重要のようだ。しかし、男女ともに愛情を確認したいと願っているのは、どこの国もきっと同じである。ビター・スウィートなアンサンブル恋愛劇は、LAの気候のようにカラリとした後味が心地よい。
(渡まち子)