アメリカのジャイアニズムに加担する日本に複雑な気分になったが、あまり深く考えすぎなければ楽しめる作品。(点数 80点)
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NASAからの友好的なメッセージに呼応してやってきたエイリアンが好意を踏みにじり世界を襲う戦争アクション。
アクションが中心だが、自衛艦艦長のナガタ(浅野忠信)と、はみ出し者だが、闘いのセンスに光るものを持つ主人公の海軍士官アレックス・ホッパー(テイラー・キッチュ)の逆境の中で生まれる友情も描かれている。
【ネタバレ注意】
智略を尽くした戦術が面白い。
古くからあるテーブルゲームの海戦ゲームから着想を得たような戦術も面白い。
戦艦ミズーリの攻撃は日露戦争時にバルチック艦隊を撃ち破る際に連合艦隊が採択した戦術。丁字戦法というらしい。
潜在意識に眠る馴染み深いゲームの要素や歴史的な戦術を映画に取り込むことで、違和感が無く彼らの戦いに共感することが出来る。
戦艦ミズーリは日本が太平洋戦争で敗北を喫して降伏文書に調印した場になった歴史的建造物。アメリカの勝利を暗示するラッキー・チャームと言っても良さそうだ。
一敗地に塗れた日本にとって太平洋戦争の烙印としての調印の場となったそのミズーリが、再び日本人を乗せてハワイ沖で異星人とまみえるアイロニーにどれくらいの人が気づくのか。
日本は『坂の上の雲』に登場する日露戦争の勝利が日本人の誇りを取り戻す成功体験となっているように、アメリカが国民の意思を統合する際の”神話”として太平洋戦争の勝利を採用している。ただし、敵を斃し国民の団結が強まるという話型は少々食傷気味。
敵であるエイリアンは血に飢えたエイリアンではなく、武器を持っている人間しか攻撃しない。唯一の例外が主人公。エイリアンはインフラを破壊しその際に多くの民間人を巻き添えにして殺害しているが、何故か1対1になると無益な殺生をしないのが不思議。
とにかくアメリカはこのようなストーリーを何度も反芻することで愛国心の発揚を促している。
他者を排斥して内部の結束を図る考え方はイジメの構造に近い。語弊があるかも知れないがアメリカのジャイアニズムにもっともらしい正当性を与えるこの映画はイジメの合理性にも拡大解釈を許すものなのだ。
こういう映画は、アクションシーンは気楽に観られる反面、そういう自分の背中をじっと見られているような違和感が残る。
これは『インディペンデンスデイ』、『パールハーバー』を観たときの感想に近い。
毎度の事ながらハリウッド映画に登場する対話に依って解決を図ろうとする人物は大抵愚か者として描かれ、敵を懐柔しようとしては失敗し、悪役に殺されるのが定番になっている。
そこで武闘派のヒーローが悪者に天誅を加える口実を与えるのが最近のハリウッドではお得意のメソッド。
今回はNASAがその愚か者の役割を負っているが、そんな回りくどいことをしなくても問答無用で襲いかかるエイリアンと否応なしに戦わなくてならなくなるのだが、軍隊のせいなのかなんのためらいも無くどんぱちするところは葛藤が無くて軽い印象がしてしまうのは無理からぬ事。
悪党は叩いて潰して排斥すればOKとしてさえいれば、仲間に引き込んだ人間には信用されるという冷戦時代には通用していた人心掌握術だが、世間が狭くなり気に入らない隣人がいても折り合いをつけて共存していかなければならないのが今の世界。
反日や嫌韓を叫んで内政の不満の調整弁にしていれば良いのは理に暗いからであって、正しい生存戦略を選ぶならば他者との共存を模索しなければならない。この狭い世界では他者を呪っても自分の墓穴をも掘らざるを得ないのがリアルな現実だからだ。
この映画ではそういったクールな選択肢を選ばずに武力に訴えることで終始している。
マッチョな映画を挙げるとしたら、この映画もそのひとつであると言うべきだろう。
アメリカのジャイアニズムに日本が加担していることを端的に示すのがアレックスとナガタ艦長の関係。
サッカーの親善試合でナガタがラフプレーを見せるのも真珠湾攻撃で見せた日本のフェアネスに欠けた戦い方を暗に批判し、観る者をインプリンティングしている。アレックスと殴り合いの喧嘩をしたすえに友情が芽生えるというのは二十世紀以降の日米関係の変遷をトレースしている。
アメリカと日本の共犯関係がいかに分かちがたい関係かが如実に窺い知れる作品。
アメリカと日本の紐帯が描かれているのは悪い気はしないが、真珠湾奇襲の恨みを今も持ち続けているアメリカに少しぞっとしてしまう。
この映画は日米関係の縮図を2時間10分に纏めたといえそうだ。
現在の日米関係が心地よいという人には勧めたい映画だ。
(青森 学)