バッド・ルーテナント - 福本次郎

◆まるで発展途上国の警官のように権力を振りかざし、横暴の限りを尽くす悪徳刑事。自分の欲望に忠実でありながら、山積する問題に忙しく立ち回る姿には、仏の手のひらの上で踊らされているようなシニカルなはかなさが漂う。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 留置場の容疑者を弄び、ギャンブル狂で借金漬け、ドラッグを若者から脅し取ったり証拠品保管室からくすねたり、さらには娼婦を愛人にし、挙句の果てはギャングに情報を流して高額の賄賂を受け取る。まるで発展途上国の警官のように権力を振りかざし、横暴の限りを尽くす悪徳刑事。自分の欲望に忠実でありながら、山積する問題に忙しく立ち回る姿には、仏の手のひらの上で踊らされているごときシニカルなはかなさもうかがえる。映画は、麻薬ディーラーとギャングの狭間でドツボにはまっていく主人公が心理的に追い詰められていく様子をコミカルに描く。

 セネガル人大量虐殺事件の捜査に当たるテレンスは、目撃者の少年を確保するが逃げられ、容疑者である麻薬組織のボスを追い切れない。一方、愛人のフランキーとトラブルを起した客を殴り倒すと、その仕返しにギャングが大金を取り立てに来る。

 サイズの合わないジャケットを着て、ベルトにさした拳銃を見せびらかすテレンス。腰の痛みを和らげるために麻薬を手放せず、精神が混濁しているのかイグアナの幻覚が見え始める。そして返済期限が近付くと、行き当たりばったりの悪あがきを繰り返す。普通なら追い詰められた男が苦悩にのたうちまわりながら逃げるか、綿密な計画のもとに一発逆転を狙うものだが、テレンスにはそんな余裕はなく、迫りくる時限に抗うすべはない。彼ひとりだけでなくフランキーも命の危機にあるにもかかわらず、どこか他人事に思える現実感のなさが暴力のにおいを巧みに消している。

 結局、いくつもの偶然と幸運が重なり、すべてのトラブルを解決した上に手柄を立てたテレンスは昇進まで手にする、こんなろくでもない男に甘すぎる顛末が待っている。しかも、一年後にはフランキーとの間に赤ちゃんを作っているのに、相変わらず若者からドラッグを強請っている。あれほど危ない目に遭ったのに、経験から何も学んでいないテレンスの人間的な欠陥が、むしろ愛らしく見えてくるという不思議な後味を残す作品だった。

福本次郎

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