◆必見の価値だけは大いに“アリ”(65点)
二種類のアリの生態を捉えたフランス製ネイチャー・ドキュメンタリー作品。
西アフリカの平原。要塞のようなアリ塚に数百万匹ものオオキノコシロアリが生息している。これを喰い尽くそうとするサスライアリの軍団がこのアリ塚に向かう。両軍の生存を賭けた激戦が繰り広げられようとするのであった。
本作はネイチャー・ドキュメンタリーではあるが、従来のこの手の作品とは随分違っている。従来のこの手の作品と言えば、美しい大自然や可愛らしい生物による癒しが売り物で観る者を惹きつけてきた。だが、本作はそういった要素は殆どと言っても良いほど皆無だ。とにかくスクリーンにはアリの軍団がウジャウジャと走り回る映像が頻繁に映し出される。さらに、アリどもは噛み合って喰い殺すのである。だから、癒し要素は微塵もないのである。
アリの様子を、マクロ撮影に革命をもたらしたと言われる最新の撮影機材“ボロスコープ”を駆使してミクロ世界を肌理細やかに描き出すことに成功した。この映像に驚愕され、圧倒させられることは間違いなしだと言える。また、照明の使い方にも工夫が施されている。
登場する生物はアリだけではない。不吉な予感を感じさせるハゲワシ、長い舌で獲物を捕らえて喰うカメレオン、カマキリ、ヘビ等が観られる。中でもヘビの存在はインパクトが大きく、観る者をとことん驚かせてくれる。大きめのヘビがアリ軍団に喰われるシーンは、信じ難いほどの衝撃的なシーンで一度観ると忘れられないだろう。
ラストはオオキノコシロアリ軍とサスライアリ軍の大戦争が観られる。監督は何百万匹のシロアリを観た時に『スパルタカス』(60)や『グラディエーター』(00)のアリヴァージョンを作ることが可能だと思えたと言った。それだけに描かれるアリ戦争がスペクタル巨編を思わせるような出来栄えであり、ここに至るまでもがドラマチックな雰囲気を醸成させて描き出されている。監督はドキュメンタリーの体制をとってドラマ描写に力を注いだのである。
ネイチャー・ドキュメンタリーのファンには女性が多いが、本作は明らかに女性向きとは言い難い。どちらかと言えば昆虫に興味を抱きがちな小学生男児にはウケるかも知れないという感じだ。この異色のネイチャー・ドキュメンタリー作品は、必見の価値だけは大いに“アリ”だと言いたい。
(佐々木貴之)