バイオハザードIV アフターライフ - 前田有一

バイオハザードIV アフターライフ

◆迫力はあるが、どこかチグハグ(65点)

 『バイオハザードIV アフターライフ』は、内容からプロモーションまで、チグハグ感の漂うほほえましい話題作である。

 たとえば私が見た完成披露試写会は、世界最速公開と銘打たれたもの。警備も厳戒態勢で、携帯電話などは当然全員没収である。しかし本作は、もともと海賊版に強い3D作品(3Dが売りの映画をPCでダウンロードして見てもあまり意味がないため)。マスコミと関係者しか来ない試写会で、多大なコストをかけてここまでしなくても……と思えなくもない。たとえるなら、足首までの真っ黒なレギンスをはいているのに、必死にお尻を抑えて階段を上がるミニスカ熟女のようなものか。

 おまけに場内アナウンスでは、本作の批評は9日まではNG、ぜったい発表してはだめよ(はーと)、とのお達しが。

 これはよくあることで、こちらは別にかまわないのだが、感想ブログすらNGといっておきながら、本作は先週末、大々的な一般向け先行公開を行っている。つまり、一般人の感想はとっくにネット上に溢れているのである。評判を隠したい宣伝戦略にしては、どこかヌケている印象を受ける。高級スーツで決めたダンディな紳士が、ズボンをはき忘れて歩いているようなものか。

 東京、渋谷駅前。世界中にアンデッドをあふれさせた元凶のアンブレラ社は、この大都会の地下でも研究活動を続けている。そこに単身襲撃をかけたアリス(ミラ・ジョヴォヴィッチ)は、しかしウェスカー会長(ショーン・ロバーツ)の猛烈な反撃にあう。

 歌手の中島美嘉が、日本最初の感染者役としてスクランブル交差点にたたずむ印象的なシーンに続き、シリーズ主演のミラ・ジョヴォヴィッチによる激しいアクションが開始される。日本びいきの彼女は今回も来日して宣伝に協力、世界最速試写会もこの国で開催されたし、日本のゲームの映画化であるからさすがに厚遇である。

 それにしても、渋谷駅前の地下に巨大なアンブレラ社の地下本部があるとはびっくり仰天の設定である。これでは半蔵門線の立場がないが、ここで行われるアクションシーン自体はなかなか盛り上がる。アリス軍団の非道な大虐殺ぶりは目に余るもので、もはやアンデッドとアリスのどちらが化け物なのかさっぱりわからない。

 むろんこれは重要な伏線で、観客に「さすがにこりゃ反則だろ」と思わせることで、彼女が無敵パワーを失うその後の展開に説得力を持たせているわけだ。

 そう、この最新作では新ネタとして、「アリスは前作までに得た超能力をすべて失う」のである。つまり、ちょっぴりいいパンチを持ってるだけの金髪細身ロシア美人に戻ってしまう。もちろん、ゾンビと対等に戦う肉体能力などない。気を抜けばあっという間に殺されてしまうだろう。

 これはドラゴンボールよろしく、回を重ねるごとに主人公がパワーアップしすぎて敵のインフレが起こる流れを、いったん断ち切るための英断である。それでスリルを生み出そうという狙いがある。

 ところが、せっかくそういういいアイデアを出したのに、危機一髪の状況から無傷で生還するなど、展開がことごとくチグハグである。オマエ全然無敵状態解消されてねーじゃねーかと突っ込まれる事確実。結局ここでも、ズボンだけはき忘れているのである。

 アリスのライバルで大ボスとなる(ゲーム版でおなじみの)ウェスカーも、あんなに冒頭の渋谷アクションで強さをアピールして期待を持たせながら、クライマックスではすっかりクレバーさを失った行動で失笑を買う。やっぱりここでも演出のマヌケさが目立つ。徹頭徹尾、この調子。もったいないなあと思う。

 本作の3Dはジェームズ・キャメロン監督のヒット作「アバター」と同じく、撮影時から立体用のカメラを使ったもので、昨今の3D映画の主流である「通常撮影→あとから3D変換」したものとは根本的に異なる贅沢仕様。

 とはいえ、一見した感じではその立体感・奥行き感よりも、通常の数百倍という毎秒1000フレームの特殊カメラ(立体撮影なので当然2台使用)によるスローモーション映像の凄さが目立つ。この組み合わせはとても効果がある。水滴一粒一粒まで確認できるバスルームにおけるバトルシーンの映像美にはとくに注目だ。

 もうひとつ長所をあげると、ゲーム的な一本道のストーリーの中に出てくる、脇役キャラクターが立っている。途中でアリスらが籠城する刑務所建物内の生存者の一人で、リーダーシップを発揮する元バスケのスター選手ルーサーなど、お約束的な登場人物はいかにもゲーム的な感じがして良い。

 贅沢な3D撮影にファントムカメラによる高感度スロー、幾多のVFX……。シリーズ最強の映像ツールを得て作られた最新作だが、それでも結論を言えば1作目の人体キューブ製造機のようなインパクトを再現することはできなかった。

 東京を舞台にはじまる点からも、日本市場を強く意識しているのがわかるが、果たしてどこまで受け入れられるか。注目したい。

前田有一

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