◆息をのみ、瞬きを忘れ、背筋は固まり、拳を握りしめ座席から身を乗り出していた。ほんのわずかなミスや油断も許されない緊張感のもと、死と隣り合わせ、極限まで集中した命がけの作業は、見る者にも一瞬の気の緩みを許さない。(70点)
息ができなかった。正確には息をのみ、瞬きを忘れ、背筋は固まり、拳を握りしめ座席から身を乗り出していた。ほんのわずかなミスや油断が即爆発につながり、莫大な被害をもたらす。道路や車、果ては人体に仕掛けられた爆弾を無力化しようとする兵士たちのテンションがスクリーンから漲る。死と隣り合わせ、極限まで集中した命がけの作業は、見る者にも一瞬の気の緩みを許さない。映画は、イラクに派兵された米軍治安維持部隊の爆発物処理班兵たちの日常を通じ、 21世紀の戦争の現実を描く。圧倒的武力を持つ米軍に対し通常の戦術では勝ち目がなく、抵抗勢力は爆弾テロと狙撃でしか対抗できないのだ。
イラク駐留のブラボー中隊に爆弾処理のスペシャリスト・ジェームズ軍曹が赴任してくる。早速爆弾を無力化するが、彼のチームプレーを無視したやり方に同僚のサンボーンやエルドリッチは怒りを覚える。
ジェームズはもはや恐怖というものに不感症になっている。いつ爆発するかわからない爆弾のコードを切り信管を抜く手順をむしろ楽しんでいるようにも見える。祖国では妻子が待っていて、任務終了後の家庭での暮らしは腑抜けそのもので、彼は再度前線に戻っていく。兵士の義務、祖国への忠誠といったお題目より、ただ爆弾を目の前にしたときにしか生きている実感がわかないスリルジャンキーとなったジェームズもまた、戦争の犠牲者なのだ。
平原で孤立した味方の車を修理しているときに、突然狙撃兵に狙われるシーンも緊迫感にあふれる。身を隠す岩場も少なく、敵がどこにいるのか、銃弾がどこから飛んでくるのかわからず、味方が次々と標的にされていく。小さな建物に隠れる敵やヤギの群れの向こうに見える敵をなんとか見つけて撃退するが、銃弾を無駄打ちするのは敵に自分の居場所を教えることになるシビアな教訓だった。イラクでの任務の恐ろしいところは、敵が身を潜めている場所分からず、街では市民にまぎれて砂漠では風景に同化しているところだ。そんな環境で、普通の人間は神経を病み、タフな者でも正気を保つのがやっと、ぶっ飛んだ者だけが順応できる。戦争の異常な状況をリアルに伝える見事な演出だった。
(福本次郎)