ハンナの愛を知らない人生が悲しみを誘う。(点数 60点)
氷雪に閉ざされた深い森で殺人マシーンとして生まれ育てられたヒロ
インは己の運命に決着をつけるべく一人旅立つ。映画は、第三者との
接触なしに成長した少女が困難を克服する過程で愛や友情といった人
間的な情緒を手に入れていくのかと思いきや、ウエットな感傷に浸ら
ず自分探しに邁進するところがユニークだ。生き残るためには殺すし
かない状況で、感情を消して直観に従う姿は気高さすら覚える。
【ネタバレ注意】
元暗殺者のエリックに育てられたハンナは独立を望み、CIA高官のマリ
ッサを殺す“卒業課題”を与えられる。ハンナはCIAの秘密基地で接触
してきたマリッサを倒そうとするが失敗、基地から脱走する。
マリッサは殺し屋を雇ってハンナを追わせ、自らはエリックに狙いを
定める。道中でハンナは同年代の少女・ソフィーと仲良くなったり、
スペイン人青年にナンパされたりする。初めて知った他者と触れ合う
楽しさ、だが彼女は心を開かない。いや、心を開くという概念がない
のだろう。キスをしようとする青年を投げ飛ばすが、胸に湧き上がる
安らぎですら彼女の本能は警報を鳴らす。そんなハンナの愛を知らな
い人生が悲しみを誘う。
また、地下街でエリックが4人の刺客を一瞬で倒すシーンは、地上から
尾行されているエリックをカメラはずっと追い、地下で人の流れが切
れた瞬間に始まる格闘劇までをワンカットで収める。エリックの緊張
が流麗な映像の中で徐々に高まっていく趣向は非常に洗練されていた。
(福本次郎)