◆この夏イチ押しのスーパーヒーロー映画が登場(70点)
子供の頃に「ウルトラマンが壊したビルは誰が弁償するんだろう?」なんて思いながらテレビを見ていた方もけっこういると思うが、『ハンコック』はそんな疑問から企画をスタートさせたかのような作品だ。
ウィル・スミスが演じるこの主人公、不死身で怪力で空も飛べるが、飲んだくれで口が悪く、品格というものがまるでない。人助けをする意欲は一応あるのだが、後先考えずに怪力を振るうため、建物、道路、列車といった社会資本に多大な被害を与える始末。市民はハンコックに怒りをぶつけるが、当人は「いいことをして何で怒られるのよ?」とふてくされ……。
スーパーマン的な優等生ではないハンコックの型破りな言動が何とも楽しい。彼に命を救われたPRマンのレイ(ジェイソン・ベイトマン)が、「嫌われ者のヒーロー」のイメージアップを買って出る設定は、政治家や企業経営者までがイメージコンサルタントを雇っているアメリカならではか。
だらしない服装をしたハンコックが、無精髭を剃ってさわやか系ヒーローに変貌するあたりのギャップは笑いどころ。もちろん外見は変わっても性格は変わっていないわけで、レイに教えられた「人に好かれる方法」をぎこちなく、しかしまじめに実践するハンコックが意外にかわいい。
イメチェンを果たしたハンコックが後半は八面六臂の大活躍……をするのかと思えばさにあらず。物語はレイの妻メアリー(シャーリーズ・セロン)とハンコックとの間で、思わぬねじれを見せていく。『バガー・ヴァンスの伝説』以来の共演となるスミスとセロンはなかなかの名コンビ。2人がどう絡むのかは、見てのお楽しみにしておいた方がいいだろう。
アメコミ原作のスーパーヒーロー映画が立て続けに公開された今夏だったが、筆者の見たところ、一番デキのいいのはオリジナル脚本の本作だった。ハリウッドの企画の貧困を憂うべきか、発想力の底力を称えるべきか、どうにもビミョーではある。
ハンコックとメアリーとの絡みがあった分、今回は強力な悪役が登場しなかった。その点は続編に期待したい。
(町田敦夫)