ハナミズキ - 福本次郎

ハナミズキ

© 2010 映画「ハナミズキ」製作委員会

◆四季折々の風景の一瞬のきらめきを切り取る素晴らしい映像に、恋人たちの出会いから別れ、再生までの10年に及ぶ時の流れが余情たっぷりに焼きつけられる。離れていても一緒に眺めた景色や共に過ごしたときめきは忘れない。(60点)

 黄金色に染まった夕暮れの空に浮かび上がる灯台、雪のちらつく夜道で肩を並べて歩く高校生の後ろ姿、無数の陽光を反射する鈍色の海、青々と茂った草原を走る単線列車。四季折々の風景の一瞬のきらめきを切り取るかのような素晴らしい映像に、青春の輝ける瞬間を共有したいと願う恋人たちの出会いから別れ、再生までの10年に及ぶ時の流れが余情たっぷりに焼きつけられる。離れていても一緒に眺めた景色や共に過ごしたときめきは忘れない。物語の底に流れる一途な思いは決して色あせない情熱に満ちている。

 北海道の水産高校に通う康平は進学校の紗枝に一目ぼれ、彼女の受験を応援する。東京の大学に進学した紗枝は新しい暮らしに馴染み、地元で漁師になった康平とすれ違うようになる。

 狭い世界で生活している康平と英語を学んで海外に飛び出そうとする紗枝。彼らの価値観の違いが生み出す距離はいつしか北海道—東京よりも遠くなっている。楽しかった思い出に生きる康平と、刺激的な現在と切り開くべき未来が待ち受けている紗枝の話はかみ合わず、コミュニケーション不足は決定的。ふたりとも近くにいる異性に惹かれ、愛し合った記憶は過去のものになってしまう。このあたりの展開はステレオタイプながら、一方で「気持ちは同じはずなのに結ばれない」という、いつの時代・どの世代にも共感できる感情が濃やかに描き込まれている。

 やがて親友の結婚式で一時帰国した紗枝は披露宴で康平と再会する。康平には妻が、紗枝には婚約者がいるにもかかわらず、ふたりは己の本心に気づく。一線を越える勇気のないもどかしさの中で、ハナミズキの花弁が舞う木の下でお互いを抱きしめ「幸せになれよ」というのが精いっぱい。自分の心の声に従って行動できない切なさが痛いほど実感できる美しいシーンだ。そして、かつて康平が紗枝に贈った漁船の模型が紡ぎだす、運命の奇跡と人生の豊饒。「ありがとう」の一言が、ハナミズキの花言葉となって見事に生かされていた。

福本次郎

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