◆愛しているはずなのに、ぎこちない接し方をしてしまう父親。胸の内をうまく伝えられず父親を誤解する息子。映画は、青空に陽光が降り注ぐ南国の明るい風土とは裏腹に、出自を知ってしまった少年の苦悩を拗ねた視線で表現する。(50点)
わが子として愛しているはずなのに、どこかぎこちない接し方をしてしまう。言いつけを守らないときはつい暴力をふるう。そんな、反抗期をむかえた息子の扱いに悩む父親の姿がリアルだ。一方の息子も、胸の内をうまく伝えられず父親を誤解してしまう。そしてすれ違いを繰り返し、お互いの心情に鈍感な父と息子がついに決定的な衝突をしてしまう。映画は、青空に陽光が降り注ぐ南国の明るい風土とは裏腹に、出自を知ってしまった少年の苦悩を拗ねた視線で表現する。その、いつか親に見捨てられるのではないかという、押しつぶされるような切迫感は、戦争で日本に見捨てられて米国の領土となった沖縄の記憶に刻まれた悔しさに起因しているのか。
中学生の良は空手を習いたいと父に頼むが強硬に反対される。しかし、同級生にカネを借りて道場に通い始めたところを父に見つかった上、殴られた良は家出、父親を射殺した友人のケビンと行動を共にする。
良はかつて父に世話になったオッサンから「本当の父親は別にいる」と聞かされ、父に愛されていないと思い込む。やり場のない怒りをすべて「血のつながりがない」せいにして納得しようとする短絡さはいかにも中学生。そんな良を受け入れて心の重石を発散させてやるクラブのオヤジの気を使わせないやさしさが胸にしみる。良も彼から「生きているのでなく生かされている感謝の気持ち」を教えられ、世の中の見方が少しずつ変わっていく。
良の父が観覧車の中で幼い娘に語って聞かせる恋物語が切なくも美しい。叶わぬ恋と知りながら諦めず、傷ついた相手を受け入れることでしか成就できない。「夢がない自分には、あなたと一緒にいるのが夢」と、まったくロマンチックではないけれどその願いが切実に伝わる言葉だった。そして、良自身さまざまな人に心配をかけていると悟り、実の息子ではない自分を育ててくれている父に対する感謝の念が湧く。朝、家に帰った良を迎える父と妹のさりげなさの中に、親子の距離が確実に縮まっているのを感じさせるラストシーンは、人は誰もが誰かを支え誰かに支えられて生きている事実を思い出させてくれる。
(福本次郎)