◆すれ違いの恋、痛みを伴う愛、忘れられない恋に永遠に続く愛。さまざまな物語を、世界各国から集まった監督たちが独創的なタッチで描いていく(65点)
「パリ、ジュテーム」のNY版であるアンサンブル・ムービーは、豪華キャストと気の利いたオチがおしゃれだ。大勢の人々が暮らし、夢を追う大都会ニューヨーク。そこには無数の出会いが生まれる。すれ違いの恋、痛みを伴う愛、忘れられない恋に永遠に続く愛。さまざまな物語を、世界各国から集まった監督たちが独創的なタッチで描いていく。
さまざまな愛の形を描くスケッチブックのような群像劇だが、舞台となるセントラルパークやブルックリン、チャイナタウンなど、ちょっとしたNY観光気分が味わえる。いかにもNYというところは、ユダヤ、中国、インドなど多くの人種が登場すること。夢と成功というイメージのNYを、人とのつながりを何よりの宝物として描くところに、9.11以降の意識の変化が見てとれる。タクシーで移動しながら撮影するビデオアーティストを媒介とし、物語同士が自然につながっていく構成になっているのが上手い。
日本からは岩井俊二監督が参加していて、これがなかなかの好編なのがうれしい。アニメ映画に音楽を付ける若い作曲家のデイビッドは、顔も知らない監督アシスタントの女性カミーユと電話で話すうちに、彼女と不思議な絆を育んでいく。携帯電話やパソコンなどテクノロジーに手助けされた出会いが、やがて本当の愛へと変わる予感を感じさせ、新鮮だった。2人がドアを開けて出会う瞬間が何とも素晴らしい。女性の心を盗んでしまうスリの青年や、ホテルのボーイと元オペラ歌手の時を超えた不思議な愛など、さまざまなパターンの愛の物語から、きっとお気に入りの1本がみつかるはずだ。ただ、アンサンブル・ムービーの欠点は物足りなさが漂うことと出来栄えにばらつきがあること。何よりこのテの企画そのものが最近氾濫しずぎている気がする。それでも、豪華キャスト、豪華監督がごく短い時間で知恵を絞る小品を見るのは楽しい。NYの空気を感じながら、短編小説を味わう感覚で、気軽に楽しみたい。
(渡まち子)