◆トム・クルーズとキャメロン・ディアスが久々にスター性を発揮(75点)
2度目の共演を果たしたトム・クルーズとキャメロン・ディアスが、米国内はもちろん、ザルツブルク、セビリア、楽園のような無人島などをダイナミックに駆けめぐる。爽快なアクションに、コメディとロマンスが絶妙の塩梅で配合された、極上エンターテインメントだ。
ジューン(ディアス)は旅先の空港でハンサムな男性ロイ(クルーズ)と出会ってときめくが、乗り合わせた飛行機内でロイはほかの乗員乗客を全員殺害。2人は不時着・炎上した機体から命からがら脱出する。翌日、ジューンを訪ねてきたCIA局員は、ロイが機密を持ち逃げした裏切り者のスパイだと言うのだが……。
ロイが善玉か悪玉か明かさないままストーリーを引っぱったのは大正解。おかげで観客は精神的に宙ぶらりんにされたまま、ジューンと一緒に非日常の体験に投げこまれる。ジューンがピンチに陥るたびにロイが颯爽と現れるのも、単なる騎士道精神で助けに来たのか、それとも腹に一物あるのかと疑心暗鬼。ちなみにタイトルにある「ナイト」は、夜(night)ではなくて、騎士(knight)の方だ。
何も知らない天然ボケ女と、すべてを心得た凄腕スパイのミスマッチぶりが何よりケッサク。絶体絶命の危機を迎えるたびに、ロイに眠らされ、何千キロも離れた場所で目覚めるジューンが笑いを誘う。数パターンのカースタントはいずれもハイレベルだが、それでいてギャグも満載。冒頭の“つかみ”のシーンからして、機内でロイが壮絶な大立ち回りを演じているのを、トイレに入ったジューンはまったく気づかないのだから世話はない。
オールドファンならピンと来るだろうが、この機上シーンはおそらく『007/ロシアより愛をこめて』(63)が元ネタだ。あちらでは列車のコンパートメント内でショーン・コネリーとロバート・ショウが映画史に残る大格闘を繰り広げる間、睡眠薬を盛られたダニエラ・ビアンキが何も知らずに眠りこけていた。
とはいえ、ビキニ姿さえ披露していればよかった60年代のボンド・ガールとは違い、21世紀のヒロインはただの“添え物”ではいられない。最初はキャーキャーとパニクるだけだったジューンも、ロイに命じられるままカーチェイスや銃撃戦に果敢に参加。最後は“救う男と救われる女”という関係性さえ逆転させていく。もちろんフェミニズムの時代のヒロインだからといって、ディアスがビキニ姿を披露していないということではないのだが。
監督のジェームズ・マンゴールドは、シリアスな人間ドラマ(『17歳のカルテ』)からSFロマンス(『ニューヨークの恋人』)、クライムアクション(『3時10分、決断のとき』)まで何でもこなす才人だ。彼の達者な演出を受け、長期低迷気味だったトム・クルーズは持ち前のカッコよさを数年ぶりに回復。このところシリアスな役柄が続いていたディアスの方も、久々にコメディエンヌとしての魅力を全開にした。異論もあろうが、あえて2人の“復活作”と形容してしまおう。
(町田敦夫)