トルソ - 渡まち子

◆生身の男性にカメラが向かない分、ヒロコが大切にするトルソは繰り返し描かれるのが面白い(55点)

 対照的な姉妹の再生を描く人間ドラマは、女性心理の深くてイタいところを突いている。アパレル業界で働く30代半ばのOLヒロコは、化粧もせず携帯も持たず同僚から合コンに誘われても断り続ける地味な女性だ。彼女は、顔や手足がない男性の身体の形をした“トルソ”という人形を恋人のように大切にして暮らしている。そんな彼女のマンションに、父親が違う妹のミナが恋人の暴力と浮気に耐えかねたと言いながら、強引に転がり込んでくる。図らずも共同生活をすることになった姉妹は、やがて少しずつ変化していくのだが…。

 この物語には男性の影がほとんどない。奔放な妹ミナの恋人でヒロコの元恋人である、浮気男のジロウといい、ヒロコと深い確執があったであろう、脳梗塞で死んだ義父といい、会話の上では登場するものの、画面には現われない。そのことが余計に女性の内部に巣食う男たちの罪を浮き彫りにする。生身の男性にカメラが向かない分、ヒロコが大切にするトルソは繰り返し描かれるのが面白い。愛情をもって抱きしめ、一緒に入浴して体を洗い、休日は海に連れて行って楽しく遊ぶ。添い寝や時には性の対象にもなる。トルソは、ヒロコを決して傷つけず何も求めない、匿名の安らぎだ。しかもこのトルソは彫刻ではなくビニール製で空気をいれてふくらませるタイプ。中身がからっぽということも、ヒロコが、体温や重みも含めて、何も求めていないのがよくわかる。ミナは隠してあったトルソを発見し、姉の孤独を知ることになるが、自分勝手でわがままに見えるミナもまた、ある事件がきっかけで、顔や手足のある生身の男との生き方以外の選択をすることになる。ぬくもりを求めながらも、その温かさが時に嫌悪の対象ともなる女性心理の不安と闇、さらにしたたかさやたくましさまでもが、ビニール製のトルソを愛情の対象とすることによって見事に象徴化されていた。是枝裕和作品のカメラマンとして知られる山崎裕の初監督となる本作、自然光や少ないセリフなど、俳優の表情で物語を語る演出で、随所に“らしさ”がある。トルソを愛してはいるが、トルソを“葬る”ヒロコの決断の先には、たとえ傷つくことになっても積極的に人と係わっていく勇気が見えた。

渡まち子

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