トゥーマスト〜ギターとカラシニコフの狭間で〜 - 青森 学

サハラ砂漠の遊牧民族トゥアレグ族の自由を求める国境を跨いだ闘争を描いたドキュメンタリー。(点数 76点)

このドキュメンタリーの中心人物ムーサは、以前はカダフィ政権の下レジスタンスの訓練を受けていたが、今は銃を捨てギターを手にし、音楽によってトゥアレグ族の自由を獲得するためバンドを結成しフランスで活動している。

そのバンド名はトゥーマスト。
トゥアレグ族の言葉で”アイデンティティー”を意味する。
彼らはサハラ砂漠に分散するトゥアレグ族を糾合し再び民族の誇りを取り戻そうと活動している。
未だレジスタンスとして活動するトゥアレグ族の男性もいるが、ムーサのように音楽で闘う者も現れている。
トゥアレグ族の音楽はジャンルで言うとトランスなのだが、トゥーマストの音楽は一部トランスのスピリッツを加えながら聴きやすいメロディアスな音楽になっている。
トゥーマストの曲は自由を追い求める彼らの叫びがメロディに乗って人の心を貫くのである。

サハラ砂漠の一画では良質なウランが採れる。
その価値に気付いた政府が採掘を始め、また諸外国が採掘権を確保し利権の温床になっている。
その地に住む遊牧民族は被曝し後遺症に苦しんでいる。
そういったメッセージも歌の調べに載せられる。

ムーサは言う。武力闘争をしている時は世間から無視されていたが、音楽を通してメッセージを伝えようとしたら世界に届くようになった、と。

適切な比較ではないかもしれないが、明治時代初期は川上音二郎が音楽を通して政治的メッセージを発信していたし、唄や川柳という文芸が現行政治への不満を穏健に表現するツールとなっていたのだ。

このトゥーマストも闘争手段を武器から音楽に変えて世界の人たちの心にダイレクトにメッセージを伝えるようになっている。恐怖では人の心は変えられない。
恐怖は人を表面的に服従させるに過ぎないことをトゥーマストは知っている。音楽こそが人の心を動かす現時点での最良の手段であることを知っているのである。

このドキュメンタリーではトゥーマストの活動のみならず、闘争を続けるトゥアレグ族の政治的背景についても説明を割いているので、トゥーマストの音楽性についての掘り下げ方が少し足りないように思う。
彼らのライブシーンは何度か登場するのだが、一曲全部を映してはいない。
サビの部分だけ聴いても結構良い曲だったと思えるからこそ、一曲フルでライブを収録して欲しかった。
とはいえ、トゥーマストを知るきっかけとしては充分な内容だと思う。

トゥーマスト入門編と呼ぶべきドキュメンタリーである。

青森 学

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