トイレット - 福本次郎

◆いつも不機嫌そうな顔の老婆は、自己主張の強い北米の若者から見たデフォルメされた日本人像。彼女の孫たちは心をこめて話せば気持ちが伝わることを発見する。家族という社会の最小単位でも努力しなければ維持できないのだ。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 いつも不機嫌そうな顔で、トイレを出た後にため息をつく。一切話さず、ただ一瞥をくれるだけ。ほとんど表情を変えないこの老婆は、自己主張の強い北米の若者から見たデフォルメされた日本人像だ。彼女の孫たちは試行錯誤の末、心をこめて話せばコミュニケーションを取れることを発見していく。映画は、家族という社会の最小単位ですらお互いが努力しなければそのつながりが維持できない現実を描くとともに、かけがえのない絆が血縁を超えた結びつきを生む幸福も教えてくれる。

 ママの葬儀の後、実家に戻ったレイは、ひきこもりの兄・モーリー、大学生の妹・リサと同居する。さらにその家には彼らの祖母・ばーちゃんもいる。レイは手を焼きながらも、新たな人間関係に安らぎ癒されていく。

 プラモデルに囲まれ、なるべく他人とかかわらないように生きてきたレイは典型的なオタク。本人はそのライフスタイルに心地よさを覚えている。だから、あまり交流のなかった兄妹祖母に日常が乱されるのが不満。ところが、利害を超えて生の感情をぶつけ合ううちに感動や喜びを共有し合う幸せを感じ始める。誰かと一緒にミシンを使い、エアギターを踊り、ビールを飲む方が、ひとりでいるよりずっと楽しいし、買ってきた寿司は一口しか食べなかったばーちゃんも、4人で作ったごちそうには舌鼓を打つのだ。食卓を囲みおいしい食べ物を味わうのがどれほど人を豊かな気持ちにさせるかを、ギョーザパーティのシーンが雄弁に物語る。

 やがて、ピアノコンクールに出場したモーリーはばーちゃんの「クール」の一言でパニック障害を克服し、レイも「衝撃の真実」をモーリーの言葉で乗り越えていく。使用中は完全な個室となるトイレットとは“個”の象徴。いかにウォシュレットが快適でも、用がすんだらすぐに出て、まずは一番身近な他人である家族に声をかける。相手を理解し自分を理解してもらってこそ、そこから違った世界が見えてくるのではないかと問う筆致はあくまでも包み込むようなやさしさに満ちていた。

福本次郎

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