デトロイト・メタル・シティ - 映画批評なら映画ジャッジ!

◆松山ケンイチが両極端な若者を演じるデスメタル"ギャグ"ムービー(80点)
笑いたい2009

 こういう仕事に就いているとつい忘れがちだが、人はそれほど大層なものを映画に求めてやしない。

 いくらギャスパー・ノエの映画が面白いといっても、あんな気持ち悪いものを普通の人は見たがらないし、また必要としない。忙しい現代人にとって映画とは、旅行に行くほど気構えず、比較的チープに楽しめる気晴らしのひとつに過ぎない。

 そんなとき必要なのはコメディ映画というわけで、アメリカでは大人気の定番ジャンルとなっている。しかし、なぜか日本ではあまり力の入ったコメディというものを見ない。いたく残念&不満に思っていたところに『デトロイト・メタル・シティ』が来た。長年こういうものが増えればいいのにと思い続けてきた、まさに万人にすすめられるコメディ作品だ。

 渋谷系ミュージシャンを目指し上京した気弱な青年、根岸崇一(松山ケンイチ)は、事務所の方針により正反対のデスメタルバンド、DMC(=デトロイト・メタル・シティ)のボーカルをやらされる。素顔のまったくわからない白塗りメイクで、ヨハネ・クラウザーII世などという悪魔キャラを演じる羽目になるが、これがなんと大ブレイク。やめるにやめられなくなってしまう。

 若杉公徳(わかすぎ きみのり)による原作漫画は、相当人気のあるコンテンツだが、この映画を企画した人たちはその読者層に向けた実写化にこだわらなかった。むしろ、読者数の10倍の未読者へアピールできる映画を作るという気構えで挑んだという。私がもっとも評価したいのはそこだ。

 何かの原作を映画にするならば、コア層狙いの縮小再生産にしてはならない。もっと言うなら、なんとかの映画化、なんてのが宣伝文句になるようじゃ駄目。ものすごく面白い映画があって、実際大人気になって、聞いたら原作があるらしい、という方がむしろ理想。過去のコンテンツを蘇らせ、相乗効果を巻き起こすというのが望ましい。総合芸術たる映画には、その力がある。

 『デトロイト・メタル・シティ』の場合で言えば、主人公が歌う数々の楽曲がまさに映画的というか、華やかでよろしい。漫画では想像しか出来なかったDMCの過激メタルが、ちゃんと形になっている。

 松山ケンイチの両極端な役作りがまた良い。ナヨナヨした素の主人公が、大好きなオシャレ系ポップスを演奏して総すかんを食う様子など、本当に笑える。メイクをすれば超人気バンドのリーダーなのに、心から好きでやりたいものは、悲しいかな誰にも認めてもらえないのだ。

 DMCの人気というのはプロレスと同じで、客も一緒になってDMCの世界を作り上げノリまくる、という点にある。となると、この映画の隠れた立役者は、DMCのファンを演ずる脇役の人々といえなくもない。監督も彼らも、あくまで適切な距離感を心得た上で、このギャグ映画の世界を作り上げる仕事に打ち込んでいる。その結果、こんなバカげたバンドの話が、不思議でもなんでもなくいつの間にかすんなり受け入れられてしまう。

 なお、劇中で歌われるオシャレな歌(?)は、じっさいに本物渋谷系のカジヒデキが手がけたもの。とはいえ、松山ケンイチが体をクネらせて歌うと、周りからキモがられるひどい扱い。そんな使われ方でもOKを出すのだから、冗談のわかる大物である。

 これだけ思い切り笑わせながらも、最後までお涙頂戴に流れなかった点も潔い。原作に触れたこともない、単に気晴らしのためシネコンにやってきた通りすがりの人々に、私は強くすすめたい。

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