ディファイアンス|映画ジャッジ!批評家による口コミ評判辛口映画情報

ディファイアンス - 岡本太陽

ユダヤ人がナチスに武力行使した逸話を描くダニエル・クレイグ主演映画（80点）

　ホロコースト研究者ネカマ・テク原作の映画『ディファイアンス（原題：DEFIANCE）』の中にこんな台詞がある、「ユダヤ人は戦わない」。それはもちろん武器を持って抵抗しないという事なのだが、この映画の中のユダヤ人は武装し戦う。『シンドラーのリスト』等の様にドイツ人がユダヤ人を救う映画はわたしたちの記憶にあるが、『ディファイアンス』はユダヤ人がユダヤ人の命を救う実話を基にした知られざる物語だ。

　1941年、ナチスがベラルーシを占拠し、両親を無惨にも殺害されたユダヤ人のビエルスキ4兄弟、トゥヴィア（ダニエル・クレイグ）、ズシュ（リーヴ・シュレイバー）、アザエル（ジェイミー・ベル）、アロン（ジョージ・マッケイ）は慣れ親しんでいる深い森へ逃げ込む。彼らはそこでひっそりと身を潜めるはずが、彼らの元に次々と同じく森へ逃げて来たユダヤ人達が集まってきてしまう。トゥヴィアが彼らのリーダーとなり森で暮らし始めるが…。

　本作はクレイトン・フローマンと共に脚本を手掛けた『グローリー』『ラストサムライ』『ブラッド・ダイアモンド』のエドワード・ズウィックが監督を務め、ナチスによる虐殺から 1000人を超えるユダヤ人を守ったビエルスキ兄弟のレジスタンス活動をアクションドラマとして描き出す。また、これは暗い時代の物語であり、骨太で典型的な台詞が多く登場するが、意外にもコミカルな要素が少なからず含まれており、ズウィック氏は登場人物達の人間らしい面も見せてくれる。

　ビエルスキ兄弟の長男トゥヴィアは人をまとめる力のあるカリスマ的存在。それに対し次男ズシュはぶっきら棒でトゥヴィアと対立する事もしばしば。ズシュが赤軍に加わろうとする際には、それに反対するトゥヴィアと互いのエゴがぶつかり殴り合いの喧嘩に発展する。3男アザエルは心優しく、末っ子アロンはまだ子供で守られる存在だ。年上である3人の兄弟が中心となって森の中で人々をまとめ、戦うために銃の使い方等を人々に教えてゆく。

　また、ビエルスキ兄弟は人々が増え続けると同時に、アラン・コーデュナー扮する年老いた教師、マーク・フォイアスタイン扮する眼鏡のインテリと共に森の中で人々が暮らしていける様に学校、病院、食料配給所等を設け共同体を形成してゆく。適切な医療処置が出来ないため妊娠してはいけないという規則があるが、共同体内で結婚もする事が出来、トゥヴィア、ズシュ、アザエルはそれぞれ「森の妻」（アレクサ・ダヴァロス、イーベン・ヤイレ、ミア・ワシコウスカ）を持つ。

　本作の最も顕著な特徴はやはりユダヤ人がレジスタンスを形成し抵抗するという事で、武装した彼らはナチスの車を襲撃する等し、武力をもって戦う。本作では銃撃シーン等、暴力描写が激しいのが印象的だ。メロドラマチックなシーンと激しい戦闘シーンが交互に登場するため、わたしたちは2時間16分の物語を緊張感を持ち見入る事が出来る。

　トゥヴィアは『ブレイブハート』のウィリアム・ウォレスの様に馬にまたがり極限状態にある森の人々を激励する。それは何も特別な事ではない。ビエルスキ兄弟の様に誰もがタフなわけではなく、ナチスへの「仕返し」以前に肉体的にも精神的にも弱っている人々に希望を持たせるのは共同体の中では何よりも大切なのだ。この映画を観る限り、多くの命を守ったビエルスキ兄弟はやはり英雄であると言えるだろう。

　武力行使は決して良い事であるとは言えない。しかし、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツに屈するだけではなく、命や人間としての尊厳を守るためユダヤ人は戦ったのであるという事をこの映画『ディファイアンス』は教えてくれる。そしてその驚くべき新事実はわたしたちの心に新鮮に焼き付く。