ヒッチコック作品『裏窓』の現代版、シャイア・ラブーフ主演(60点)
『どの殺人鬼も誰かの隣人である』というコンセプトの基に作られた映画『ディスタービア』、わたしたちの日常にありうるかもしれないという可能性が興味を引くサスペンスだ。監督D・Jカルーソは日本ではほとんど無名に近いだろう。イーサン・ホーク、アンジェリーナ・ジョリー主演映画『テイキング・ライブス』の監督でもある。今回この『ディスタービア』という映画はアルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』を現代版にアレンジした作品となっている。『裏窓』ではアパートだったが、『ディスタービア』では郊外の一軒家が舞台である。それ故、若干行動範囲も広くなっている。
この作品の主演には最近顕著に活躍が見られる若手実力派のシャイア・ラブーフが起用されている。彼は『インディ・ジョーンズ』の第4作目にも出演が決定しており、監督のスティーブン・スピルバーグには『ヤング・トム・ハンクス』と呼ばれている。また今夏の超話題作でアニメの実写版『トランスフォーマー』でも主役を務める。彼はシリアスからコミカルまで幅広い役をこなすことのできる俳優として注目が集まっている。
映画冒頭でシャイア・ラブーフ演じるケイルは車の事故で父親を亡くしてしまう。そしてそのことが理由で高校のスペイン語教師を殴り、3ヶ月家から出られないという処分を裁判所に言い渡される。家でだらしない生活を送っているケイルを見て母親はインターネットもiTunesも解約する。なにもやることが無くなってしまったケイルなのだが、そんなときに隣に同い年くらいの女の子アシュリーが引っ越して来る。それからというものケイルは自身の楽しみとして、双眼鏡でアシュリーの生活を追う事になる。親友ロニーがケイルを訪ねて来たとき、二人はアシュリーが泳ぐ姿を双眼鏡で見るのだが、アシュリーは気付いてしまう。そしてアシュリーが彼の家を訪れ、ケイルとアシュリーの近所付き合いが始まるのである。
またこの頃連日地元の新聞やニュースではある女性が行方不明になっているという事件がとりあげられていた。そんな中、ケイルとアシュリーが興味本位で隣人のターナー氏の家を覗き見しているとき、二人はとんでもないことがおきそうな予感を感じとる。その時は何も起きないのだが、その後、ケイル一人になったときに、彼はターナー氏の家から微かな悲鳴のようなものを聞く。そして彼は、女性が半裸状態でターナー氏の家の中で逃げ惑っている姿を見る。ケイルはその様子をビデオにおさめるのだが、間違ってフラッシュをたいてしまったため直ぐさま隠れる。その後、恐る恐るまたターナー氏の家を覗き見たとき、なんとターナー氏と目が合ってしまう。そしてケイル、アシュリー、ロニー、ケイルの母までもが悲惨な事件に巻き込まれてしまうのであった。
この映画『ディスタービア』は特に映像的に新しい試みをしているわけでもなく、映画『スクリーム』シリーズのように悲鳴が鳴り止まない映画というわけでもない。ただやはりヒッチコックの『裏窓』のように人間の深層心理を突く作品になっている。この映画に出てくる登場人物は全てどこにでもいるような普通の人として描かれている。しかし、普通故に怪しさが付きまとうのはこの映画の醍醐味であろう。やはり『どの殺人鬼も誰かの隣人である』、こういうことである。映画後半はB級映画チックな雰囲気になるが、『ソウ』などと違ってグロテスクな映像もないので、全体的なムードを楽しみながら観ることをお薦めする。
また主人公ケイルの親友役のロニーを演じるアジア人の男の子は映画の中での息抜き的存在としてなくてはならない役になっている。この映画は、これからもアジア人の俳優がアメリカで活躍するかもしれないという期待を抱かせる作品として観るおもしろさもある。
(岡本太陽)