ディア・ドクター - スタッフ古庄

◆127分(80点)

 すごい引力がこの作品にはあります。

 サスペンスでもミステリーでもなく、ど派手な演出があるという訳ではありません。ただ、現在の日本社会が抱える様々な問題を、そこから起こりえる出来事を、日常的に描いた作品です。

 これだけ聞くとエンターテイメントとしての映画ではなく、お堅いもののように感じられるかもしれませんが、この作品に描かれているのは、これらの問題に直面した人々の複雑な心理状態。

 しかも、こんなにも的確に、こんなにもわかりやすく、こんなにも丁寧に表現できるものなのかと驚かずにはいらない!すべてに共感せずにはいられない内容です!

 台詞なくして、人々が時折かもし出す"暗黙の了解"域を絶妙なニュアンスで表現してくる手法には圧巻で、場面場面の人間の心理を表現するような細やかな演出もみごとです!

 否が応でもどんどんどんどんストーリーにはまり込まされますよ!

 ストーリーとしては、山あいの小さな村のたった一人の医師が失踪したことから始まります。警察が捜査を開始すると・・・驚いたことに村人は、自分たちが「神さま仏さまよりお医者様」と慕っていたはずの男について、はっきりした素性を何一つ知らなかった。。。

 捜査が進むにつれ、行方はおろか出身地さえ曖昧なその医師、伊野(笑福亭鶴瓶)の不可解な行動が浮かび上がってくるのだった。(予告より)

 予告やあらすじ紹介で、どういう内容なのかは、うすうすわかってしまうところだと思いますが、きっと想像していたものよりも遥かに深い、濃い内容だと感じられるハズ!!

 住民の半分は高齢者という過疎の地で、たった一人"医者"をしていた伊野。

 彼をとおして、人が嘘を突き通していくとどうなるのか、その心理状態から、医師不足、高齢化による高齢者個々の過疎化など日本社会全体の問題から、人が人の命を扱うことへの葛藤、そしてどのように人の最期を迎えさせてあげるべきなのか・・・人の生死を扱うに値するホンモノの資格とは・・・医師として人として正解のない問題まで、127分という短い時間のなかに、濃縮されてます。

 また、伊野失踪の真実が明かされていくとともに、伊野が失踪した後の村人の態度の変わり様は滑稽でもあり愚かでもあり・・・ここでは、人が"信じたくないこと、都合の悪い事は見てみぬふりをする"という心理にも、またそうせざるをえなかった状況にも納得いかされる。

 ストーリーの筋道がとてもシンプルで、物語の流れに対して頭を絞る必要がない分、心理的な部分に集中できる為か、それぞれの立場のいろいろな人の思いが手に取るようにわかります。

 さらに、村民皆家族のような"日本の小さな村"がどういったものなのかも丁寧に描かれていて、非常にリアルで完成度の高い作品だと思います!

 監督の西川さんは、すごいですよ! どこがどうすごいのか私が持つボキャブラリー・知識ではとてもお伝えできない事が申し訳ない! 前作の「ゆれる」でも人間の絆、人情、そしてそのもろさを丁寧に描かれていて、すっかり西川ワールドにハマリましたが、今作はさらにレベルUPです!

 暗くドロドロとした人間模様だけではなく、人間の持つおちゃめさや可愛らしさをも取り込み、それらを初主演とは言え、演じていることすら忘れさせるくらいハマリ役の笑福亭鶴瓶さんと、その脇を表情や仕草一つで人の気持ちや思惑、場の雰囲気まで伝えてくれるプロの役者陣がしっかりと固め、文字通り「人間(キャラクター)の厚みを増した」濃い内容となっています。

 綿密に綿密に手塩にかけて作り上げられ、監督と役者陣のバランスがちょうど良いというのか、なんと言っていいかわからないのですが(汗;) とにかく、心にストンといい感じに落ちてくる作品です。

 "小さな村の大事件"ということで、冷静に考えると非常に怖い内容なんですが、観ているとき、観終わってからは不思議と心がほわっと温かくなるような仕上がリもまた素敵なものでした♪

 是非、DVDでも地上波放送になってから(笑)でもいいので、皆さんに観て頂きたい映画です!

スタッフ古庄

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