◆竹島防衛キャンペーンなんかに利用しなきゃ可愛げがあるのだが(60点)
「あんなオトコ大嫌いよ」といいながら、別れた男の影響を受け続ける女性がたまにいる。音楽の好みだったり、服装のセンスだったり、あるいは性癖だったり。嫌よ嫌よといいながら、高いプライドと自己愛の結果、影響を受けた自分を変えられない。日本と韓国の関係は、そんな滑稽な男女関係に似ている。
テコンドー選手のフン(声:キム・ボミ)は、並み居る強敵を倒してついに世界大会を制した。彼の父キム博士は、ガールフレンドのヨンヒやその父らと共に、正義の巨大ロボットテコンVの開発に精を出していた。だがその影では、テコンVの設計図を奪い世界征服をたくらむ謎の組織の魔の手がキム博士に迫っていた。
『テコンV』は76年に韓国で公開され、国民的人気を博したアニメ映画。このたびデジタル処理で綺麗なフィルムへと生まれ変わり、めでたく公開となった。
本作は、日本でいえば「マジンガーZ」や「ガンダム」のように、その時代を生きた少年たちの原風景となった重要な作品である。韓国アニメ黎明期ということで、日本アニメの影響を強く受けているのが特徴だが、必死に元ねたとの違いを出そうと努力した跡がいくつも見られる。同時に、そうした部分にこそ、かの国のアイデンティティーが色濃く出現しており、最大の見所となっている。
もっとも、こうしたまじめな能書きは一応書いてみただけの話であり、見ている間は単純に大笑して楽しんだというのが実際のところである。
まず序盤のテコンドー試合から笑わせてくれる。対戦相手の日本人は歯並びが悪く、見るからに悪人顔。出てきた瞬間にかませ犬だとわかる親切なキャラデザインだ。案の定、ハンサムな主人公がその凶悪日本人をコテンパンにのした後は、いよいよ決勝で白人のアメリカ人(悪人顔)と対戦、勝利する。愛し合った国ほど嫉妬する。これが国民性というものか。
ちなみにこのシーンにおける人物のテコンドーの動きは、かなり正確に人体の動きが再現され、古いアニメーションの割には目を引くできばえとなっている。
主人公たちが戦う敵組織を「アカ帝国」と呼ぶネーミングセンスにも苦笑い。黒幕のシンボルマークなどは、どうみても北朝鮮そのもの。そのアカ帝国ときたら、敵国のスポーツ選手を次々拉致して洗脳し、自国の戦士に仕立て上げる。どうみても、しゃれにならない展開である。日本人拉致問題がおき始めた70年代という公開時期を考えると、薄気味の悪すぎる符合というほかない。
なお、この部分は作品の個性としてもきわめて重要である。というのも、アカ帝国はなぜか「決勝戦で負けた」二番手のスポーツ選手ばかりを拉致してるのである。これは日本人の感覚では理解できない。主人公にテコンドー決勝戦で負けたアメリカ人を連れてきて、洗脳して再びぶつけたところで、勝てるわけがないと考えてしまう。最初からチャンピオンを拉致すればいいのに、アカ帝国は馬鹿なのか?!
だが、これは韓国人であれば説明無用で理解・共感できる部分といえる。勝負を制するのは技術ではなく、精神力と考える彼らには、その中でも「恨」のエネルギーこそ最強という共通認識がある。「死ぬほど悔しい」思いをした敗者に生じる「恨」のパワーこそ、悪者が利用するに値する強力な要素というわけだ。こういう日韓の違いを探す視点で本作を見ると、より楽しむことができる。
次に肝心のテコンVについてだが、ミサイルよりパンチ攻撃の方が10倍くらい破壊力があるなど、戦闘能力バランスの猛烈な偏りがほほえましい設定。テコンドーで戦うロボットというのは、他国のアニメではまず見られない部分だろう。
なおこの作品では、日本語字幕がときおり不自然な挙動をみせ、笑わせてくれる。まじめな博士なのにセリフの言い回しが突然チンピラ風になったりなど、狙ってやっているのでなければ基本的な日本語のリズムがおかしい。また、小鳥が歌を歌うメルヘンチックなシークエンスがあるが、歌ってる間中、画面に「ピヨピヨ」と字幕を出し続けるなげやりなセンスというのも他に類を見ない。
こうして書くと、なんだかバカ映画のようだが、基本的にはまともな、意外としっかりしたアニメ映画であった。むろん、時代が時代だから作画技術やストーリー、世界設定に斬新なものはない。しかし、人間にあこがれるロボットの悲哀、親の思いを受け継ぐ息子の心、コンプレックスをバカにされダークサイドに落ちる悪役(その理由がまたなんとも……)など、様々なドラマを破綻なくまとめた手腕は評価していいと思う。
プライドの高い日本のモトカノは、この時代にすでにそれなりのものを作っていたという事だ。元カレの影響受けまくりの出来栄えだが、それをうざいと思うか、可愛いとこあるじゃんと思うか。見る側の懐の深さが問われる部分であろう。
(前田有一)