笑い、泣き、そしてためになる。 なかなか、こんな映画はないと思います。(点数 100点)
(C) 2011「ツレがうつになりまして。」製作委員会
こんな映画を待っていました。
漫画家のハルさんと、コンピューター会社のクレーム処理担当のツレ。
そして、ツレが突然、うつ病になります。
最初は戸惑いながらも、漫画家の鋭い観察眼で、
ユーモアを交えながら語られるうつ病の闘病記。
うつ病とはどんな病気なのかをリアルにイメージできるようになる。
うつ病患者さんが見て、うつ病がどんな経過をとるのかがわかる。
うつ病の家族が見て、今後の先行きを知る手がかりになる。
そうした教育的な意味合いが目につきますが、
「夫がうつ病になった」という深刻なテーマを、
基本はコメディで随所に笑いを交えながら、
また原作漫画同様、ほのぼのとした空気感で、
そして時に感動的に描いています。
これだけ深刻な題材でありながら、
エンタテイメントとしてしっかりとできている、
という所が凄いと思います。
笑い、泣き、そしてためになる。
なかなか、こんな映画はないと思います。
いろいろな要素が盛り込まれた映画ですが、
最終的には、苦しいも楽しいも、常に一緒に経験してこそ夫婦。
「夫婦愛」といっても、そんな仰々しいものではなく、
マイペースありながらさりげなく夫を気遣う優しさに、
実に自然体で等身大でリアリティのある夫婦愛が感じられ、
後半は涙無くしてはみられません。
何回泣くか数えていましたが、
5回を超えたあたりから、多すぎて数えられなくなりました。
宮崎あおいが実にキュートです。
また、彼女の言葉一つ一つが、ストレートに心に響いてきます。
また、無表情でぶっきらぼうに見える堺雅人の演技は、
誤解を受ける可能性もありますが、まさにうつ病患者そのものの
リアリティを見事に表現しています。
無表情、感情の表現が乏しくなる、というのもうつ病の症状の一つです。
そして、大杉漣や余貴美子などの脇役陣もいい味を出しています。
そうした脇役陣のおかげて、
「病気はたくさんの人に支えられながらよくなっていく」ということが、
伝わってきます。
個人的には、漫画家として真剣に取り組んでいなかったハルさんが、
夫が病気になったことで、「自分が頑張らないと」と
一念発起し、作家として漫画の執筆に本気を出していく
くだりにも引きこまれました。
彼女は夫がうつ病になったことで大きく自己成長をするし、
漫画にも真剣に取り組むようになり、結果として、
ベストセラーを出すことにつながっていきます。
つまり、病気というのは、必ずしもマイナスの側面だけではない。
病気を期に夫婦愛を強め、そしてそれをバネに成長し、
飛躍することもできる、という非常にポジティブなメッセージを
感じました。
うつ病で苦しむ患者さんとそれを支える家族が見れば、
「うつ病とは、こんなイメージで治るんだ」ということがわかり、
将来が開けるはずです。
あるいは、普通の人がこれを見ておくと、
うつ病になったときに、かなり早く気付けるということもある。
自分がなった場合も、家族がなった場合も。
でも、エンタメとしておもしろいからこそ、
はじめてその教育的意味が輝いてきます。
原作も読みましたが、
リアルなビジュアルによる映画ならでは分かりやすさ。
ストーリーテリングのうまさ。
情緒的な盛り上げのうまさ。
映像で語るというスタンス。
などなど、良い原作があり、
映画製作者と俳優陣の頑張りがあって、
良い映画が出来上がった、ということがわかります。
非常に多面的な映画で、いろいろな人に色々な気付きを
与えてくれるはず。
是非、たくさんの人に見ていただきたい一本です。
(樺沢 紫苑)