◆『マッハ!!!!!!!!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督待望の新作（65点）
映画監督プラッチャヤー・ピンゲーオと言えば、トニー・ジャーと組んだ『マッハ!!!!!!!!』『トム・ヤム・クン！』の大人気ぶっ飛びアクション映画で有名で、彼の映画の最大の特徴はアクションシーンにワイヤーを使用しないという事。そしてピンゲーオ監督はワイヤーなしでありながらも超人的なアクションシーンをこれでもかと物語の中に盛り込み、マーシャルアーツ映画ファンを魅了している。映画『チョコレート・ファイター（英題：CHOCOLATE）』はピンゲーオ監督が放つ待望の新作。しかも今回の主人公は女の子。彼女もワイヤーなしでアクションシーンに挑んでいるから驚きだ。
日本人のヤクザの父マサシ（阿部寛）とタイ人の母ジン（アマラ・シリポン）の間に産まれた子ゼン（ヤーニン・ウィスミスタナンダ）は特別な子。マーブルチョコレートが好きな彼女は自閉症だが身体能力が並外れて高く、家の隣のムエタイ道場の練習や、テレビで放映されているアクション映画を観てマーシャルアーツのスキルを身に付ける事が出来るのだ。時が経ち、ある時彼女の母親がガンに侵されてしまう。以前ジンが仕事帰りに路上で出会い家に招き入れた男の子ムーンとゼンはジンの治療の為に自分たちで金を集めようとする。ムーンとゼンはジンには内緒で彼女の手帳を頼りに、彼女が金を貸したと思われる人々を当たってみようとするが…。
今回のピンゲーオ監督作の特徴はアクション映画でありながらも、親子愛を描いているという事。また本作には、世界中のすべての"スペシャル"な子供達への愛が込められている。物語はコテコテな始まり方をし、まずマサシとジンが愛し合い、マサシは日本へ戻り、ジンは1人でゼンを産む。そしてジンはゼンの脳に障害がある事を医師によって知らされる。それでも彼女はゼンに無償の愛を注ぎ、元愛人のタイ人のギャングNo.8に脅されても、母1人でゼンを育てる。はじめの30分程は、展開は早いものの、一体この映画は大丈夫なのか？と思わされてしまう作りで退屈してしまうが、それ以後はプラッチャヤー・ピンゲーオ節が炸裂する。
本作の魅力はなんと言っても最強少女ゼン。母親を病から救う為、自己流のマーシャルアーツの技で敵を徹底的に痛めつけ、彼らから金を取り上げる。この敵達がなぜマーシャルアーツを習得しているのか分からない普通の会社の従業員達で、次から次へとゼンに対抗するものの、無様に負けてしまう。またアクションシーンはピンゲーオ監督作らしく痛々しいシーンの連続でつい顔を背けてしまいそうになるが、映画の中ではどう見ても15歳くらいにしか見えない主演のヤーニン・ウィスミスタナンダがワイヤーなしで軽い羽の様に華麗に舞い戦う姿は一見の価値ありだ。
日本からは阿部寛が参加しているが、彼の役もまた面白い。彼はタイのギャング達に刀で切られまくっても死なず、阿部氏はシリアスに演技しているが、わたしたちはまるで日本のコントでも観ている様な感覚に陥ってしまう。本作『チョコレート・ファイター』はゼンが戦い始めてからはアクションシーンが止まらない。ギャグみたいな映画だが、俳優やスタントの方達はワイヤーなしで命懸けで撮影に挑んでおり、彼らのプロ根性には本当に頭が下がってしまう。映画の最後にはこの映画への愛情を増してくれるメイキングが流れ、わたしたちは「ワイヤーなし」という伝説をこの目で確認するのだ。アクションシーンが終わってから直ぐさま医師が重傷の俳優やスタントマンに駆け寄る映像が非常に生々しく、この映画の衝撃は倍に膨れ上がる。おそるべき映画である。
（岡本太陽）
