チャーリー・ウィルソンズ・ウォー - 岡本太陽

冷戦終結に導いた張本人を描く実話を基にした映画(75点)

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 アメリカ下院議員チャーリー・ウィルソン。彼はプレイボーイとして知られているが、彼にはもう1つの逸話がある。それは彼が冷戦を終結に導いた張本人であるということだ。冷戦とは、資本主義のアメリカ合衆国と、共産主義のソビエト連邦の直接武力を行使しない戦いであった。しかし、40年以上も続いたこの戦いは、1989年12月に地中海のマルタ島にてゴルバチョフとジョージ・H・W・ブッシュの会談によって終結が宣言されたのである。

 そこで、どうしてチャーリー・ウィルソン議員が冷戦終結の張本人であるかというと、1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻を開始した。このソ連のアフガニスタン侵攻により、アフガニスタンは騒乱に包まれた。この様子は『君のためなら千回でも(原題:The Kite Runner)』という映画でも描かれている。しかし、チャーリー・ウィルソンがアフガニスタンのイスラム教徒達に大量の兵器を提供した事で、ソ連はアフガニスタンを制圧することができず、逆にソ連は弱体化に追い込まれたのだ。これがレーガン大統領ではなく、チャーリー・ウィルソンが冷戦終結の張本人と言われる所以である。そしてチャーリー・ウィルソンの冷戦終結までの物語が映画化された。トム・ハンクス主演の『CHARLIE WILSON’S WAR』というコメディドラマ風の作品である。

 1979年、ソ連がアフガニスタンに侵攻を開始した。酒好き女好きのチャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)は「グッドタイム」を楽しんでいたが、ある時、テレビで放送されていたソ連のアフガニスタン侵攻の様子に興味を示す。チャーリーの友人、パトロン、そして愛人でもあるテキサスの非共産主義者で大富豪ジョアン(ジュリア・ロバーツ)はチャーリーにアフガニスタンのイスラム教徒のゲリラ集団ムジャーヒディーンに対して資金と武器を提供する様に提案する。そしてこの2人と、チャーリーのパートナーのCIAエージェント:ガス(フィリップ・シーモア・ホフマン)の3人は、彼らの行った作戦を通して世界を変える事となるのだった…。

 監督はマイク・ニコルズ。『卒業』『ワーキング・ガール』『クローサー』の監督として有名だ。また彼が監督を務めた2003年放送のテレビシリーズ『エンジェルズ・イン・アメリカ』は好評を博した。今回の『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』は70歳を越える高齢であっても、マイク・ニコルズは興味深い映画を作るという監督としての証明作品のようなものだ。

 主演のトム・ハンクス、共演のジュリア・ロバーツ、フィリップ・シーモア・ホフマンの3人は共にアカデミー主演男優賞、女優賞の獲得者。とにかく、この作品は俳優達の演技合戦。そして、これだけクセのある俳優を揃えているにも関わらず、互いが邪魔をし合わないのがこの映画の見どころでもある。また、忘れていけないのが、チャーリー・ウィルソン議員秘書役のエイミー・アダムズ。彼女は今年『魔法にかけられて(原題:ENCHANTED )』の演技でゴールデン・グローブ主演女優賞にノミネートされている。実際、彼女の出演シーンはジュリア・ロバーツのそれよりも多い様に感じられた。エイミー・アダムズが演技ができる女優として認められたことにより、より一層この作品の質が向上した。

 この『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』はジョージ・クライルによる同名小説の映画化なのだが、彼に書かれた小説によってチャーリー・ウィルソンはアメリカのヒーローになった。コネを使ったり、汚い方法で武器をアフガニスタンのイスラム教徒達に渡した人物なので、実際の彼はおそらく、女たらしで、良心の欠片さえあるか分からない様な厭らしい男だったのかもしれないが、この男をトム・ハンクスが演じることにより、むしろ気さくで良い人に見えてしまう。

 結局、武力には武力で対応するアメリカ。今と昔も全く変わらない事実である。冷戦を終結に導いた男、チャーリー・ウィルソン。彼はアメリカの英雄。この映画は少々、アメリカ万歳的な作品と見受けられるところもある。近年はシリアスな反戦映画が主流の中、この『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』はコメディ調。戦争は恐ろしいものであるという、最近の風潮に乗っとらないストーリーの描き方だが、この作品は非常に皮肉を含んでいるのだ。

 チャーリー・ウィルソンはアフガニスタンのイスラム教徒の戦士達ムジャーヒディーンに武器を提供してソ連を弱体化させ、冷戦終結に大いに貢献した。しかし、ここ数年の出来事で、アメリカとアフガニスタンという国の並びで思い起こさせることはなんだろうか。それはやはり911のテロではないだろうか。そしてその繋がりを連想させるかのような事実がある。アルカイダのリーダーとして知られるオサマ・ビン=ラディンは80年代にはなんとアメリカの後ろ盾を受けムジャーヒーディーンとしてソ連と戦っていたのだ。

 アメリカに支援を受けたイスラム原理主義のムジャーヒディーンはその後、タリバンに姿を変えアフガニスタンを支配し、反米に転じたビン=ラディンが組織するアルカイダに資金援助した。武力で支援したアメリカは、結局タリバンを武力強力させた様なもので、後に911テロとして多大なる被害を被る事になるのだ。チャーリー・ウィルソンは冷戦を終結に導いた張本人であると共に、911テロが起こる原因を作ってしまった張本人でもあるのかもしれない。『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』はそんな大きな皮肉のつまった作品である。

岡本太陽

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