どれをとっても脚本に無駄がない(75点)
怖いほど閉塞感を感じるクライム・サスペンスの秀作だ。韓国で実際に起こった猟奇殺人事件をベースにしているこの物語は、元刑事でデリヘルを経営するジュンホが、良心のかけらもない猟奇殺人鬼を追い続ける追走劇。詰めが甘い警察、頼りにならない法律、犯人の底知れぬ心の闇と、どれをとっても脚本に無駄がない。韓国映画特有の過剰な暴力描写にはマイるが、犯人に翻弄される主人公の焦燥がヒリヒリするほど伝わってきて目が離せない。囚われた女性が携帯に残した伝言が、恨みごとではなく「この仕事はもう辞める。怖くてたまらない」と絶望感に満ちているのが、安易なヒューマニズムを拒否し、悪意に満ちた社会の闇の存在を感じさせる。こんな秀作でデビューする映画人がいるのだから、韓国映画のポテンシャルの高さは疑いのないところだ。
(渡まち子)