ダージリン急行 - 岡本太陽

ウェス・アンダーソン監督最新作(70点)

 ウェス・アンダーソン。『アンソニーのハッピー・モーテル』『天才マックスの世界』『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ライフ・アクアティック』と、この監督が作る映画は独特の世界観があり、非常に人気が高い。彼は今年待望の新作『ダージリン急行(原題:THE DARJEERING LIMITED)』を発表した。この作品は今年のニューヨーク映画祭でオープニング作品に選ばれる等、話題性にも事欠かない。随分前から予告編が映画館で流れていたが、それは期待で胸が膨らむ様な予告編であった。期待通り『ダージリン急行』でウェス・アンダーソンの新しい世界を感じることができるであろうか。

 父の死をきっかけに互いに会話をしなくなった3人兄弟、フランシスとピーターとジャック。彼らは再び家族の絆を取り戻す為に11個のスーツケースを抱え、インドで列車の旅に出る。彼らは、彼らがかつてそうだった様に、再び兄弟になり、更に人としても繋がりを深めることができるだろうか。この映画は彼ら兄弟3人の精神的探求の物語である。

 まず、旅の計画者で大怪我をして登場する長男フランシスをウェス・アンダーソンとは旧友で、彼の作品には常に出演しているオーウェン・ウィルソンが演じている。ウェス・アンダーソン以外の作品では『ミート・ザ・ペアレンツ』『ウェディング・クラッシャーズ』『ナイト・ミュージアム』等に出演し、最近はコメディ映画常連としての地位を確立しつつある。そして父のサングラスを大事にする次男ピーターは『ピアニスト』でアカデミー主演男優賞を獲得した印象の強いエイドリアン・ブロディが演じている。今回ウェス・アンダーソン作品には初参加である。そしてiPodとスピーカーを持ち歩くシチュエーションフェチの三男をジェイソン・シュワルツマンが演じる。コッポラファミリーの彼は、主に特異なキャラを演じることが多い。代表作には『ハッカビーズ』『マリー・アントワネット』がある。その他の出演者にはアンジェリカ・ヒューストン、ビル・マーレー、アマラ・カラン、ナタリー・ポートマン等がいる。

 まず『ダージリン急行』の中で、今までのウェス・アンダーソンの作品になかったものといえば、70年代のカルト映画を連想させるような、カメラのズームアウトが所々に使用されているということだろう。わたしはアレハンドロ・ホドロフスキーの『ホーリー・マウンテン』を思い出した。舞台がインドということもあり、このズームアウトが映画の不可思議さを強調している。

 またウェス・アンダーソンの映画というと、音楽にこだわりを持っているが、今回はThe Kinks をフィーチャーしており、物語をより印象的なものにしている。この映画で使用されているThe Kinksの楽曲は「Lola Versus Powerman And The Moneygoround, Part One」というアルバムに収録されている"This Time Tomorrow" "Powerman" "Stranger"の3曲。特に"This Time Tomorrow"は旅の始まりに、"Stranger"は旅の終わりに使用されており、映画の世界観を表す歌詞が重要な役割を果たしている。

 そして、ウェス・アンダーソンの作品の中でいつもキャラクターが成すゆるい会話だが、今回も前の作品達と同じ様にそれはあるのだが、会話だけではなくストーリーの展開もかなりゆるいのである。特に列車の中でのストーリーは笑えるものの少々かったるい。列車が道に迷ってしまうエピソードは、ウェス・アンダーソンらしい奇妙さが感じられるが、不自然過ぎて逆に呆れた。この映画が挽回するのは後半、3兄弟が列車を降りてからで、インドという神秘的な国という場所を借りて、生と死は常に隣り合わせであること、生も死も身近な存在であるという事を描いており、そこへ来てはじめて精神的探求の旅に近づく。

 この映画『ダージリン急行』は興味深いテーマを含んでいるものの、結局期待とは裏腹に『天才マックスの世界』や『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』には及ばなかったというのが総評である。ルイ・ヴィトンとマーク・ジェイコブスがコラボレーションしたり、映画の中で使用される物にはこだわったり、ビジュアル的には情熱を感じるが、内容的にはパッとしないのがこの映画の弱点。感情表現も乏しいし、一番重要な精神的探求についてもっと描いてもよかったのではないだろうか。

 ところで、『ダージリン急行』を作るにあたって、ウェス・アンダーソンは三男ジャックがインドの旅に出る前のストーリーを短編映画として制作した。題名を『Hotel Chevalier』という。ジェイソン・シュワルツマンとナタリー・ポートマンが出演している。この短編映画の入手方法はインターネット上でのダウンロードだが、この短編映画を観てみると、これがなんと素晴らしい。わたしは『ダージリン急行』よりも、この12分そこそこの『Hotel Chevalier』を気に入ってしまった。非常におかしくて美しいストーリーである。今年公開された『パリ・ジュテーム』の中の1編の様な作品だ。『ダージリン急行』を観る前には是非『Hotel Chevalier』をチェックして頂きたい。

岡本太陽

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