ダークナイト - 町田敦夫

◆ヒース・レジャーの渾身の演技に圧倒される“ジョーカー映画”(70点)

 これはバットマン映画ではない。これはジョーカー映画だ。

 金や怨恨などといった俗な理由ではなく、ただこの世に破壊と混乱をもたらすために殺人、放火、爆破を繰り返す白塗り男の存在感は、あまりにも圧倒的。演じるヒース・レジャーは劇中で1度も素顔をさらすことなく、このサイコな敵役になりきった。撮影終了後、彼が数か月を経ずして突然の死を遂げたのも、ただの偶然とは思えない迫真ぶり。その鬼気迫る怪演は、命をかけて『ブラック・レイン』の悪役を演じた松田優作を、どこか彷彿とさせるものがある。

 監督のクリストファー・ノーランは、タイトルから“バットマン”という言葉を外した理由を問われて、公式には「“バットマン”と“ダークナイト(暗黒の騎士)”は同義だから」と答えているが、案外「バットマンよりジョーカーの方が面白くなってしまったから」というのが本音かもしれない。もともとダークなヒーローを愛するがゆえにバットマンシリーズを手がけたノーランだが、本作を作っている過程でバットマン以上にダークなジョーカーに予定外の傾倒をしていったことは十分に考えられる。結果、本作が単なるバットマン映画の1本と観られることを、彼は潔しと思わなくなってしまったのではあるまいか。

 これまで『メメント』や『プレステージ』といった比較的予算規模の小さな映画で観客を刮目させてきたノーランだが、本作では派手なアクション場面も非凡にこなしている。格闘、銃撃戦、カーチェイスと見どころは多彩。とりわけジョーカーが大病院を丸ごと吹き飛ばしたのには度肝を抜かれた。新たなギミックとして登場したバッドポッド(バットマンが乗る重武装の二輪車)も、アメコミの古典的作品に新たな息吹を吹き込んでいる。

 ただ、強烈な殺戮と破壊に彩られた152分間は、あまりに陰鬱で観ているのがつらい。ノーランの監督・脚本作はただでさえ複雑かつ長めだが、本作はレジャーの怪演に興が乗ってか、一層尺が延びた感がある。結局のところこれは娯楽作品なのだから、もっと陽性でシンプルな作りにしてもいいのでは。

 もっとも、こんな日本人ライターのつぶやきは、『スパイダーマン3』を破って歴代1位に輝いた驚異の全米オープニング記録の前には、軽く消し飛んでしまうのだが。

町田敦夫

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