◆ジャッキー・チェンのアクションは過激さがなくなった代わり、名人芸の域に達している。軽めのコメディーだが、熟練の技を堪能出来る。(67点)
ジャッキー・チェンのハリウッド進出30周年記念映画。内容も、それにふさわしく、冒頭、主人公のこれまでの活躍を紹介するのに、ジャッキーの過去作品のダイジェストを使うなど、様々な作品にオマージュを捧げている。
ジャッキーが最初にハリウッド映画に進出したのは、ロバート・クローズ監督の「バトルクリーク・ブロー」(1980)だった。公開当時、ワクワクして見に行って、ガッカリして帰ってきたのを覚えている。あの映画では、ジャッキーだけが浮いている印象だった。一人だけ動きがキレすぎていて(香港映画時代のジャッキーに比べれば全然キレがないのだが、それでも)、相手役のプロレスラーたちがついていけない。クローズ監督の演出も、ブルース・リーのような一撃必殺の強さをジャッキーに要求していたように思う。半ばやられながら相手と延々と戦うというジャッキーのアクション・スタイルには合わなかった。
その後、香港映画でハリウッドに進出した「レッド・ブロンクス」(1995)でチャンスをつかんだジャッキーだが、「シャンハイ・ヌーン」(2000)や「ラッシュ・アワー」(1998)など、バディもののシリーズは、やっぱりジャッキーだけがアクションも演技も浮いていた。「タキシード」(2002)は佳作だが、ワイヤーの使用が目立って寂しかった。
本作を見て一番感じるのは、ジャッキーが老いたなあということだ。もちろん、ずいぶん前からジャッキーの老いは感じていたが、これまでガールフレンド役はいつも若い美女だった。それが、美女ではあるが、若くはない子持ち女性なのだ。その子供たちと楽しそうに絡んでいるジャッキーを見ると、時の流れを実感する。それだけこちらも老いているわけだが。
もちろん、ジャッキーのアクションにも、往年のキレはない。ところが、このキレのなさが、かえって本作にとっては良かった。ハリウッドのゆるめのコメディーの中で浮きまくっていたジャッキーのアクションが、本人の衰えによって、皮肉なことだが、初めてピタリとはまったように感じた。
いつもは残酷なくらいに散々に打ち据えられるジャッキーも、今回は子供向けの作品のためか、ほとんどけがを負わない。アクションも、子供たちを守りながらというハンディがあるため、激しさは緩和され、むしろユーモラスなアクロバットが中心になっている。
それでも、イスや冷蔵庫など、どの家庭にもある家具や家電を武器として使ったアクションは、いつもながらアイデア豊富で見応えがあった。過激さはなくなったが、やはりジャッキー・アクションは凄い。ここまでくれば、名人芸の域だ。
それに、子供たちとジャッキーとの心の触れ合いには意外に泣かされた。特にジャッキーが「自分は孤児だった」と長女に語るところなどは、胸を打たれた。
(小梶勝男)