タロットカード殺人事件 - 福本次郎

◆積極的な女と根性ナシの男。ウディ・アレン得意カップルの物語も、自らの加齢と相手女優の若返りで夫婦や恋人という関係は成り立たず、ニセ親娘。しかし、テンポの速い会話はエスプリに満ち溢れ、二転三転して飽きさせない。(70点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 積極的な女と根性ナシの男。ウディ・アレンが得意とするカップルの物語も、自らの加齢と相手女優の若返りのおかげでもはや夫婦や恋人という関係は成り立たず、この作品では親娘。しかも祖父と孫にすら見えるほど年齢は開いている。しかし、このふたりの掛け合いのようなテンポの速い会話は相変わらずエスプリに満ち溢れ、展開は二転三転して飽きさせない。さらに死に対する独特の観点で、死者や幽霊にもまだまだ人間的な欲望が残っていることを描き、楽しませてくれる。

 ロンドンに遊びに来た学生新聞の記者・サンドラはシドニーというマジシャンに協力したときに、ロンドンを騒がせている「タロットカード連続殺人事件」の犯人に関する情報を幽霊から仕入れる。容疑者は貴族の実業家・ピーター。サンドラは身分を偽ってピーターに接近する。

 素人が探偵を気取って対象を調査尾行し、真実にたどり着こうという設定は「マンハッタン殺人ミステリー」同様、人生に刺激を求めている女性のほうがはるかに行動的。腹をくくったサンドラはすっかりピーターを虜にするが、彼女もまたピーターに恋をする。三途の川の渡し舟から死神の目を盗んで現世に戻ってきたり、プールで溺れる振りをして気を引くとか、ピーターの家の地下室にふたりで忍び込むというバカバカしい場面も、アレン映画の持つ独特の雰囲気に乗せられているうちにいつしか心地よい笑いに昇華されていく。

 やがて、別の犯人が捕まり、ピーターは無実と思わせておいて、さらにもう一ひねり。サンドラはピーターの正体を暴き、無事事件は解決する。ハリウッド女優からスカーレット・ヨハンソン、ジャズからクラシック。お気に入りの女優や音楽の趣味が変わってもコメディの本質は変わらない。年齢を重ねてもセンスは老いていないウディ・アレンの創作意欲、舞台になる街をニューヨークからロンドンに移してますます研ぎ澄まされてきたようだ。

福本次郎

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