従来のゾンビ映画の定石的作風を打破した作品を作り出すことに成功したと言っても良いだろう。(点数 75点)
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あらゆるタイプのゾンビの登場により、未だ衰える気配を感じさせないゾンビ映画。またまた異色のゾンビ映画が登場。しかも、青春コメディーのテイストを取り入れた新テイストが味わえるのだ。
監督・脚本を担ったブレット&ドリューのピアース兄弟は、実父が『死霊のはらわた』でSFXアーティストを務めたバート・ピアースということで、幼少期のブレット&ドリューは『死霊~』の撮影を眺めて育った。そんな生まれながらのゾンビ映画メーカーだからこそ、従来のゾンビ映画の定石的作風を打破した作品を作り出すことに成功したと言っても良いだろう。
ルックスがオタクっぽい青年マイク(マイケル・マッキディ)は、ゾンビ軍団と人々の戦いを目の当たりに驚愕する。さらに、銃撃されたマイクは一切痛みを感じないことから自身もゾンビとなってしまったことに気づく。やがて、よく喋る陽気な男ブレット(ロス・キダー)に出会う。彼の話によると、二人は生きていた頃の知性と記憶を喪失していないゾンビと人間のハーフらしいとのこと。マイクは、ポケットの中からかつての恋人エリー(エデン・マリアン)に渡しそこねた婚約指輪を発見し、二人で彼女のもとへと向うおうとするが、スゴ腕ゾンビ・ハンターたちが彼らを追いつめる……。
序盤から中盤にかけてはゾンビ映画らしいグロテスクな描写が観られる。本作に登場するゾンビはジョージ・A・ロメロらが作り上げた正統派ゾンビ映画に登場するゾンビたち同様にノロノロと歩き、数名のゾンビが人間一人をムシャムシャ喰い、腸をはじめとする臓物が抉り飛び出る。そんなゾンビ映画ファンに嬉しいシーンをしっかりと描けているのは、好ましいポイントだ。
マイク&ブレットと行動をともにするクリフとチーズの存在も面白さを醸し出す。クリフはベトナム戦争に二度出征した経験があるオッサン。戦地で今は亡き嫁と結婚したとのことだが、クリフの口から語り出すこのエピソードがバカ丸出しで笑いを誘う。オマケに、ED克服方法の持論や亡き嫁の性癖を暴露するシーンなどとにかく下ネタ全開。一方、チーズは完全なるゾンビである。マイク&ブレットがペット代わりに連れているが、二人の用心棒的役割を担う。ゾンビ・ハンターズを相手に持ち前の怪力とゾンビ化したからこそ備わった凶暴さで徹底的に痛めつけるのだ。私はマイク&ブレット+チーズの道中劇を観て、往年の関西ローカル深夜番組『夜はクネクネ』で原田伸郎と角淳一の二人をボディガードするような形で同行する新人時代のトミーズ雅を思い出してしまった。
中盤を過ぎたあたりから本作がゾンビ映画であることを忘れさせる。マイクとブレットの男同士の友情劇やクライマックスのマイクがエリーに思いを打ち明ける甘酸っぱくて微笑ましいシーンといった好感なシーンが観られる。
恋と青春、友情をしっかりと描き、ゾンビ映画にありがちな恐怖を抑えてグロテスクなシーンでさえも笑いに変えてしまう本作。ピアース兄弟はゾンビ映画を利用したユニークな青春コメディーとして仕上げることに成功したのだ。しかも、エンドロールではNG集を用意するなど、とにかく最初から最後まで存分に楽しませてくれるという「本当に面白い作品を作ってやる」という意気込みと腕前を高く評価したい。
(佐々木貴之)