ゾンビランド - 前田有一

◆気持ちのいい連中が活躍する、万人むけ大ヒットゾンビ映画(75点)

 ゾンビ映画といえば、娯楽映画のド定番。予算の大小にかかわらず面白いものが作れるし、コメディから恋愛、アクション、サスペンス、セクシー、そしてもちろんホラーと、どんなジャンルの要素も包み込む懐の深さがある。これはもう、ホラーではなく「ゾンビ」というジャンルで捉えたほうがよほどわかりやすい。

 そんなわけで古今東西、数え切れぬほどのゾンビ映画が作られてきたが、そんな激しい競争の中で「史上最大のヒット」の快挙を達成したのが『ゾンビランド』。

 これは考えてみたら大変なニュースである。なにしろこの最新ゾンビ映画は、3Dでもなければ超一流のスターが出ているわけでもない。このジャンルの王道といってもいい「オタク監督」とは正反対の、「これまでゾンビ映画なんて見たことも無い」などと語るルーベン・フライシャー監督による万人向けの作品である。しかもベースはコメディーかつロードムービーという、異色作というから驚きだ。

 ゾンビウィルスにより、ほとんどすべての人間がゾンビ化してしまったアメリカ合衆国。テキサス州の引きこもり学生コロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)は、臆病で慎重な性格と、ネットゲームで鍛えた反射神経、そして自らに課した「生き残るための32のルール」なる規則により、なんとか生き延びていた。やがて彼は、どこかキレたあぶないマッチョオヤジのタラハシー(ウディ・ハレルソン)と出会い、ゾンビをぶちころしながら目的地へとドライブを続けてゆく。

 途中でくせのある美少女も合流し、幸せの黄色いハンカチよろしく不恰好なこのパーティーは旅を続ける。旅の終わりにハンカチが飾られることは無論ない。

 ゾンビコメディ映画『ゾンビランド』のいいところは、マニアックなネタに走らず、比較的わかりやすい笑いでまとめたところか。非オタ監督の面目躍如といったところだが、かといっておふざけ無しというわけでもない。アメリカ映画ファンには、ちょっとしたサプライズゲストも登場する。ただそれでも、独りよがりの趣味に走らず、観客第一のコンセプトを貫いたところに好感を持てる。

 たとえば、屈強な米兵が全滅して、引きこもりのゲームオタクが生き残るという設定からしてシャレがきいている。この映画で活躍する「人間」は、童貞オタクにテキサスおやじに詐欺師の女。見るからに社会不適格なダメ人間ばかりである。

 しかもこれらのキャラ立てが巧みで、初見は「なんか嫌な奴」とマイナス感情を抱くように登場させ、その先入観を裏切るエピソードをちりばめていく心憎いつくり。映画がクライマックスを迎えるころには、観客はこのデコボコ集団に完全に感情移入し、心から応援することになる。

 その遊園地におけるゾンビ軍団との戦いは、決して特別な映像的見せ場があるわけではないが、そこまでのドラマの積み重ねで人間が描けているため、この上なく盛り上がる。中でも、ただのバカなオッサンかと思っていたウディ・ハレルソン演じるタラハシーが、尋常ではない数を相手にした悲壮なる戦いを繰り広げる場面は大変な感動を呼ぶ。

 ゾンビ映画初心者といいながらこの監督は相当研究を重ねたようで、適度なフラグ切りともいうべき変化球を織り交ぜ、ゾンビ映画フリークをもうならせる。

 最後の人類となった負け犬軍団が、そのしぶとさ、往生際の悪さでゾンビの国をたくましく闊歩する痛快ムービー。くえないその性格が、妙に頼もしい。オタクといけてる美少女の恋という、最近の流行もおさえた堅実さ、器用さも覗かせる。

 これならナンバーワンヒットも納得。地味にみえて小技の聞いた、観客重視、鑑賞後感最高の、まさに万人にすすめられる新感覚ゾンビエンタテイメントである。だまされたと思ってごらんあれ。

前田有一

【おすすめサイト】