デビッド・フィンチャー監督最新作、主演:ジェイク・ギレンホール(75点)
1995年米国公開の映画『セブン』で一躍その名を知らしめたデビッド・フィンチャー監督による最新作『ゾディアック』。サンフランシスコで1960年代から1970年代にかけて実際にあった出来事を基に本が書かれ、その本を原作として映画が製作された。ある殺人事件が起こり、その後ゾディアックと名乗る犯人から新聞社宛に挑発するかの様な声明文が届き、この事件はメディアを巻き込む大騒動に発展する。
その声明文より
“I like killing people because it is so much fun it is more fun than killing wild game in the forest because man is the most dangerous animal.”
この映画は連続殺人事件という同じ題材を扱いながらも『セブン』とは全く異質の映画として成立している。まず作品の冒頭で殺人事件が起こるのだが、わたしたちはそれがどの様な殺人事件であったかを知る事ができる。例えば、犯人像、殺し方など。『セブン』ではわたしたちの見えない所で次々と事件が発生するという設定だったが、どのような殺人事件だったかを冒頭で知る事でわたしたちはこの犯罪自体は複雑化はしないということを理解する。
それから映画『ゾディアック』の特徴として、殺人事件が軸にはなっているが、事件発生、それから解決という一般的によくあるストーリー展開になっていない点が挙げられる。またこの映画に一番相応しい言葉を挙げるとすれば、それは『執着』だろう。なぜならこのストーリーは取り憑かれたように事件を追う男たちのそれで成り立っているからだ。事件を解決することよりも、犯人は誰なのか、それを知りたい、この目で犯人を見なくてはならない、という執着。物語の核が『執着』故にこの映画はかなり男っぽい作品なのかもしれない。
執着は時に病となることもある。映画の中でゾディアック事件に取り憑かれたのがジェイク・ギレンホール演じる新聞紙サンフランシスコ・クロニクルの漫画家ロバート、ロバート・ダウニー・Jr演じる新聞記者ポール、マーク・ラファロ演じるSFPDの刑事デビッドの3人。この事件に関わった3人は次第に執着という病にジワジワと心を蝕まれるのである。作品中彼らが執着心により家庭崩壊、自己崩壊を招く様が描かれていたり、殺人事件そのものより、人の内面に焦点を合わせている作風が興味深かった。
『ゾディアック』という作品でわたしたちはデビッド・フィンチャー監督に変化を見出すことができる。この映画は特にど派手な映像があるわけではなく、どちらかというとストーリーを淡々と描く作風だ。観客にはその変化がどう映るかはわからないが、わたし個人の意見としてはその変化は非常に良い方向に向かっていると感じる。以前の作品より派手さはないが、よりデビッド・フィンチャー自身の趣味で撮った興味深い作品に仕上がっていると思う。次回作に期待したくなる映画だった。
※今作はデビッド・フィンチャーの新しい試みとしてフィルムでもビデオでも撮影されていない。撮影にはViper FilmStream Cameraというものを使用している。さらに編集にApple社のFinal Cutを使用しており、デジタル作業で一貫している。
(岡本太陽)