◆アンジェリーナ・ジョリー主演のスパイ・アクション。ストーリーは荒唐無稽だが、それが気にならないほどのスピード感は見事。ジョリーはどのシーンでも魅力的だ(74点)
近頃、ロシアの美人スパイが逮捕されて話題になったが、現実の(恐らく)地味な諜報活動とはまるで無関係な、ド派手なスパイ・アクションである。
アンジェリーナ・ジョリーが、走り、飛び、格闘し、銃を撃つ。全編、アクションが全く止まらない。この疾走感は実に見事だ。
CIA職員のソルト(アンジェリーナ・ジョリー)が二重スパイの疑いをかけられ、逃亡しつつも、意外な行動をとり始める。ソルトの正体が次第に明
らかになっていくと、物語は二転、三転する。その展開にはかなり無理もあるのだが、凄まじいスピード感で、見ている間は気にならない。
このスピード感を支えているのは、ジョリーを徹底的にアクションだけで見せる演出だろう。テレビのある番組で、ソルトの女性らしい感情やセクシー
さが描かれていないので、ジョリーの魅力を十分に発揮できていないとの評を見かけたが、逆だと思う。むしろ、正体も内面も分からないまま、男女の違いなど
超えて、精密機械のように行動するソルトを描くことで、サスペンスを維持しているのだと思う。リュック・ベッソンの「ニキータ」(1990)などとは違う
種類の作品なので、期待するのは間違っている。
内面など描かなくとも(あるいは内面が描かれないからこそ)、ジョリーは絵になる。どんな場面でも実にカッコいい。年齢を重ねたことで、訓練され
たプロとしての風格も出ていると思う。
残念だったのは、カメラが動きすぎて、せっかくのアクションがはっきりと見えないことだ。最近はこうした「はっきり見せない」見せ方が目立つ。う
まくやれば迫力やリアリティーを出せるが、下手をするとただ分かりにくいだけだ。本作の場合、スピード感を最優先したのかも知れないが、ジョリーがカッコ
いいだけに、はっきりと見せてほしかった。せっかく、ムエタイを元にイスラエルの「クラヴ・マガ」を取り入れたという格闘術を使っているのに、その面白さ
が伝わってこないのだ。一方で、ソルトが周りにあるものからあっという間に爆弾を作っていく、その手際の良さには惚れ惚れした。
(小梶勝男)