◆アンジーの七変化とアクション(だけ)は必見(65点)
アンジェリーナ・ジョリーは(あるいは彼女のスタントマンは)この映画で何度、高所から飛び降りたことか。高架道路から飛び、トラックの屋根から飛び、地下鉄から飛び、エレベーターシャフトから飛び、その間に格闘、射撃、爆破、暗殺。ついでに目の色や髪の色を変え、人相を変え、服装を替え、ついには男装まで披露してくれた。
CIA分析官のソルト(ジョリー)は、尋問中のロシアのスパイ、オルロフから、二重スパイとして名を挙げられる。誤解だと訴え、拘束しようとする上司のウィンター(リーヴ・シュレイバー)や防諜部のピーボディ(キウェテル・イジョフォー)から逃げ出したソルトは、しかしオルロフの言葉どおりに訪米中のロシア大統領を暗殺。さらにホワイトハウスに潜入して米国大統領の命を狙うのだが……。
冒頭の30分間の吸引力は強烈だ。思わぬ運命の渦に呑みこまれたヒロインが、ストッキングを脱いで監視カメラを覆い、消火器を改造して迫撃砲を作り、武装集団が固めるCIAのビルから単身、脱出。さらにはワシントンの町を舞台に、斬新でド派手なカーチェイスを繰り広げる。この時点ではまだ観客の気持ちはソルトと一体だから、その緊迫感たるや半端ではない。
だが、それもソルトが攻撃に転じるまでだ。『ターミネーター』シリーズを例に取るまでもなく、アクションもので本当に面白いのは逃亡劇。獲物がハンターに変わった途端に、たいていのアクション映画は魅力をなくす。本作もまた、ソルトの正体が明らかになった時点でサスペンスとしての魅力は雲散霧消。ストーリーやキャラクター造形にも多くの破綻があるために、感情移入度は尻すぼみに下がった。これではアンジー姐さんの七変化を観賞するぐらいしか、楽しみはありませんわな。
(町田敦夫)