◆夢だけを追うには歳を取り過ぎ、夢をあきらめるには若すぎる。何者にもなれずにもがいている主人公の感情が非常に切なくてリアルだ。映画はどこかにある希望を探し求める若者の姿を通じて、生きることの辛さと素晴らしさを描く。(70点)
夢だけを追うには歳を取り過ぎ、夢をあきらめるには若すぎる。大人になる前にやり残したことに未練を覚えている若者と、彼を応援ている恋人。目標に向かって努力しているつもりでも、居心地のいい“今”に押し流され、何者にもなれずにもがいている主人公の感情が非常に切なくてリアルだ。そして彼に身を託し、一緒に寄り添うヒロインもまた、自己の証を求めている。ぬるま湯のような現在に浸りきってしまいそうな恐れと、不確定な未来への不安、映画は閉塞感に覆われそうになりながらもどこかに希望があるのではと彷徨する彼らの姿を通じて、生きることの辛さと素晴らしさを描く。
OLの芽衣子は大学時代の軽音楽部の同級生でミュージシャンを目指す種田と同棲中。ある日、突然会社を辞めた芽衣子は種田に本気でプロになるように促し、種田ももう一度仲間を集めて最後のチャンスと新曲のレコーディングに挑む。
音楽が好きでたまらないのに自分に自信が持てない種田、そんな種田の隣で彼を信じている芽衣子。種田にとって芽衣子は心の拠り所である一方で、彼女の期待の大きさに押しつぶされそうにもなっている。彼女を愛し、彼女に愛されているのは確かだが、己の人生さえままならないのに芽衣子の人生まで背負いこんでしまうプレッシャーに耐えられないのだ。黙って家出した種田が芽衣子に電話して、もう一度やり直そうという気持ちを伝えた後に、自ら命を絶つかのように交差点に突っ込むシーンが種田の絶望の深さを物語る。音楽の才能はないという現実に突き当たっているのに芽衣子には愛されている。その幸せを抱えたままで死んでしまおうという種田の哀しい決意が鋭く胸に突き刺ささる。
芽衣子は種田の残した歌を歌うためにステージに立つ決心をし、ギターを猛練習、種田が訴えたかった魂の叫びをマイクに向けて絶叫する。それは彼女の、種田からの卒業であるとともに青春への決別の儀式。だからこそ道半ばで逝ってしまった者は、いつまでも残った者の思い出の中で生き続ける特権を得られるのだ。
(福本次郎)