ソフトボーイ - 町田敦夫

ソフトボーイ

© 2010「ソフトボーイ」製作委員会

◆A型人間は割を食う(70点)

 スポーツライター山際淳司の「たった一人のオリンピック」には、競技人口の少ないスポーツなら今からでもオリンピック選手になれるだろうとふと思い立ち、特に好きでもなかったボート競技を始めた大学生のことが書かれている。一方、『ソフトボーイ』で描かれるのは、県内に男子ソフトボール部を持つ高校が皆無であることに気づき、お気楽に全国大会出場を目指したお調子者の物語。佐賀県の高校で実際にあったエピソードを元にした、ギャグ満載の傑作青春ムービーだ。

 牛津学園調理科のオニツカ(永山絢斗)は、幼なじみのノグチ(賀来賢人)から「ソフトボール部さえ作れば全国大会出場ばい!」と世間をなめきった言葉を聞かされる。昔からノグチに振り回されっぱなしだったオニツカは、今度も気が進まないまま、なし崩し的にメンバー集めを手伝うはめに。男子の少ない高校でどうにか集めた9人の部員は、しかしキャッチボールもろくにできない素人ぞろいで……。

 動機の不純なへっぽこチームが、次第に競技への情熱をはぐくみ、最後に勝利以上のものを得る。そんなスポーツコメディの常道は、本作でも忠実に踏襲されている。林民夫の脚本にはアメリカのシットコムのような上質のギャグが目白押し。青春ものの定番である玉突き衝突的な片思いの描写も、ほどよくストーリーに織りこまれている。学校きってのヤンキー、存在感の薄いデブ、見かけ倒しの黒人留学生といった脇役キャラの造形も上々。だが本作を凡百の類似作品からひときわ際立たせているのは、オニツカとノグチの関係を描いた「人間ドラマ」の部分だろう。

 本人はその場の思いつきで適当に世渡りをしているだけなのに、その言動はなぜか回りの人々を惹きつけ、いつの間にやらムーブメントの中心にいる。そんなB型人間は、確かにこの世に存在する。実話の「主役」だった高校生も、おそらくそうしたタイプの人物だったのだろうと想像されるが、本作の成功の一因は、そんなノグチではなく、凡庸なA型人間のオニツカを主役に据えたことだ(注:劇中ではノグチやオニツカの血液型については特に触れられていません)。

 ノグチのせいで教頭には怒られ、大好きな女子マネには振り向いてもらえず、一流シェフになる夢は後回し。ところがノグチはオニツカの気持ちなどまるで気にせず、KY丸出しで自分の計画を話すだけ。A型人間の私たちが本作を観て共感するのは、オニツカと同じ苦々しさを、日頃「身近なノグチ」に味わわされているからだ。それでもノグチとの関係を切れないのは、彼らの中に私たちにはない何か、そう、悔しいけれど「魅力」と呼ばざるを得ない何かが見て取れるから。リアリティのかけらもないジャニーズ映画とは違い、賀来と永山がノグチの嫌な部分、オニツカの駄目な部分をきちんと表現しているのが素晴らしい。

 0対34でリードされてなお、「努力すれば来年は勝てる」ではなく、「次の回に逆転するけんな!」と飛び切りの笑顔で言えるノグチは、この閉塞の時代にも世界に羽ばたき、サイコーの女の子をモノにし、あるいは就活で早々と内定を取るのだろう。エンディングで小振りな幸せを手に入れるオニツカの姿は、鑑賞後の後味をさわやかにする反面で、なぜだか少しほろ苦い。こんな脚本が書ける林氏は、おそらくノグチではなく、オニツカのひとりなのだろうと思う。

町田敦夫

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