◆仲里依紗が魅力的で、それだけで十分に楽しめる。哀川翔のデビュー25周年記念作でありながら、どこまでも仲里依紗のための作品になっている(75点)
三池崇史監督作「ヤッターマン」(2009)は、深田恭子が演じるドロンジョが余りにも魅力的だった。私も含め、もうストーリーなどどうでもいいから、ドロンジョだけを見ていたい、と思った人も多かったはずだ(と思う)。そんな人にとって、本作は理想の作品だ。ドロンジョよりもセクシーで魅力的な仲里依紗の「ゼブラクイーン」と「ゼブラウーマン」を、たっぷりと見ることが出来るからだ。
西暦2025年。記憶を失った市川新市(哀川翔)は、路上で目覚める。そこは東京都知事の相原公蔵(ガダルカナル・タカ)が君臨するゼブラシティだった。朝夕の5分間にゼブラタイムが導入され、警察官は無条件で民間人を撃ち殺していいとされていた。ゼブラシティの広告塔は相原の娘・ユイ(仲里依紗)。ゼブラクイーンとなって歌い、ヒットチャート40週連続ナンバー1になっていた。市川はゼブラタイムの犠牲者を匿う「白馬の家」のメンバーとともに、ゼブラシティと戦い始める。
冒頭から、黒のボンデージ・ファッションに身を包んだ仲里依紗が歌い踊る。まるで彼女のプロモーション・ビデオだ。これが、実にいい。スタイリストの松本智恵子、ヘアメイクアーティストの冨沢ノボルが最高にカッコいいゼブラクイーンを作り上げ、ライブ映像を安室奈美恵のPVを手がける久保茂昭が監督している。ああドロンジョにもこれをやって欲しかった、と思う。ここで一気に作品世界に引き込まれてしまった。この冒頭のシーンこそ、本作の真のクライマックスと言っていいかも知れない。
監督・三池崇史と脚本・宮藤官九郎のコンビは、前作同様、ヒーローものの展開に則りながら、様々なブラック・ユーモアを炸裂させる。次第にエスカレートして、最後の方はワルノリと思えるほどだ。そこを楽しめるかどうかが、本作の評価の分かれ目だが、私は大いに楽しんだ。ゼブラタイムに国会議員が「プロレス」をしているちょっとエロティックな場面など、三池監督らしい逸脱がいい。人間を遠心分離器にかけて「善」と「悪」に分けるという発想もすごいし、別れた「善」と「悪」を再び合体させるときのオヤジギャクみたいなお笑いも面白い。
細部のインパクトに比べ、全体のストーリーにまとまりがないのは、いつもの三池作品と同様だ。「白馬の家」の田中直樹や井上正大、都知事役のガダルカナル・タカらのキャラクターも今一つピンとこないのだが、みんな仲里依紗を引き立てるための脇役と考えればいい。どうせなら彼らの出番を減らして、ゼブラミニスカポリスにもっと活躍して欲しかった。そして次は是非、仲里依紗の「ゼブラウーマン」を主役に撮ってもらいたい。
(小梶勝男)