◆セラフィーヌのキャラや行動だけでも印象深いものが多く、これだけでも十分に面白く観られる作品(85点)
素朴派の女性画家セラフィーヌ・ルイの生涯を描いた人間ドラマで2009年度のセザール賞で作品賞をはじめ最多7部門を獲得した。
1912年。フランスのパリ郊外サンリスで家政婦として働くセラフィーヌは、孤独で貧しい生活を送っていた。彼女はプライベートでは、熱心なキリスト教信者であることから聖歌を歌い、自室に籠もっては手作りの絵の具で絵を描くことに没頭している。ある日、そんな彼女の前にドイツ人画商ヴィルヘルム・ウーデ(ウルリッヒ・トゥクール)が現れる。彼女の絵の才能に心を奪われたウーデは、良き理解者として家政婦を辞めて絵を描き続けることを強く薦め、無償の支援を申し出る。その後、セラフィーヌの名は世間でも次第に知られるようになり、金銭面も豊かになっていくのだが……。
草木に話しかけ、神や天使を心から信じているというピュアハートなセラフィーヌのキャラクターぶりに興味を抱いてしまうこと間違いなし。とにかくこのピュアハートぶりは、タダモノではない。また、実在した人物ということを考えるとさらに驚愕させられる。セラフィーヌのキャラや行動だけでも印象深いものが多く、これだけでも十分に面白く観られる作品なのである。でも、一歩やり過ぎると風変わり、不思議系キャラを通り越したタダのヘン人。この個性的な役柄をヨランド・モローは自然体な感じで好演した。
また、セラフィーヌをサポートするウーデとの心の交流がストーリーをさらに面白く昇華させ、観る者に感動を与えるのである。
芸術を扱った作品だけに作風そのものも芸術感に満ち溢れていて味わい深い。清々しい大自然の風景活写も一枚の絵画のように思え、これだけでも見応え十分。他にもノスタルジックなムードが味わえるシーンも観られ、これまた素晴らしい。でも、何よりも注目したいポイントは、セラフィーヌの絵画の数々であり、どれをとっても渾身の一作と言い切れるほどのパワフルな作風なのである。そして、数々の絵画からはセラフィーヌの繊細さすら感じられるのだ。
終盤、世界大恐慌の影響で現実とのバランスを崩したセラフィーヌは精神を病んでしまう。発狂するシーンが観られるものの、精神病の症状を強く押し出しすようなことをしていないのが良い。
芸術に興味のある方にはもって来いの作品だが、趣味や仕事、学業に一生懸命に取り組んでいる方や一人で悩み事を抱えている方にはオススメしたい一作だと言いたい。大きな勇気と希望を与えてくれること間違いなしだ!!
(佐々木貴之)