「血と暴力の美学」は見いだせなかった。(点数 40点)
(C)真鍋昌平・講談社/2011「スマグラー おまえの未来を運べ」製作委員会
人生とは、本当の自分を隠してなりたい自分になり切ること。やくざ、
金貸し、殺し屋、運び屋、裏社会に生きるものは少しでも弱みを見せ
たら付け込まれてしゃぶりつくされる。だからこそ、恐怖や苦悩など
感じない人間であると周囲にアピールし続けなければならない。強が
るか寡黙になるか、物語は流されるままに堕ちてき青年が、運命と対
峙する覚悟を決める姿を描く。
【ネタバレ注意】
役者志望の砧は借金返済のために、運び屋・ジョーの下でやくざ組長
の死体処理を手伝う。親分を殺した二人組の殺し屋・背骨と内臓は仲
間に裏切られ、ジョーと砧たちは生き残った背骨の搬送を委ねられる。
肉が歪み骨がきしみ血しぶきが飛ぶ。ヌンチャクを振り回して一瞬で
数人のやくざを仕留める背骨の動きはスーパースローのシュールな映
像で表現される。一方、拷問を得意とするやくざの幹部・河島はじっ
くりを時間をかけて相手を痛めつけ口を割らせようとする。2人を並列
して背骨の洗練と河島の残虐を対比させようとしているが、背骨のヌ
ンチャク技はブルース・リーに遠く及ばず、河島のサディスティック
な性癖に至っては不快感だけが強く残る。結果的に、そこからは「血
と暴力の美学」は見いだせなかった。
触れると切れるような狂気を孕んだ背骨に扮した安藤政信以外いイマ
イチ華のない男優たちに比べ、金貸しを演じた松雪泰子や極妻役の満
島ひかりら女優の存在感が作品を引き締めていたのが救いだった。。。
(福本次郎)