スパイ・ゾルゲ - 前田有一

◆20億円もかけたのに……(30点)

 日本映画界の巨匠、篠田正浩監督の引退作品。邦画としては最大級の、20億円もの製作費と、10年にわたる構想を経て完成した大作である。

 『スパイ・ゾルゲ』の特徴その1、壮絶に長い。始まってからすぐ成田を発てば、映画が終わるまでにブラジルくらいまで軽く往復できるんじゃないかと思うほど長く感じる。もちろん、別に上映時間が3時間を超えても、それ自体はいいのだが、この単調さはいかんともしがたい。

 『スパイ・ゾルゲ』の特徴その2、古い。 これは、数十年前が舞台だから古く見えるとか、そういう問題ではなく、映像のセンスから音楽のセンスから、みな古い。例えば音楽で言えば、こうした時代ものに、クラシックの有名曲ばかりを随所に挿入するセンスというのは、どうであろう。出来上がった時からすでに古典というのは、ときには格調高いと評されることもあるが、この映画の場合はそういう感じではない。

 『スパイ・ゾルゲ』の特徴その3、安っぽい。 軍人の服、背景の室内セット、とても20億をかけた映画とは思えない。これは、軍人役の役者たちの動きにも問題がある。

 せっかく篠田御大の引退作品で、帝国軍人の役を貰ったと言うのに、なぜ彼らは真剣に役作りしないのだろうと、私は不思議でならない。彼らの動きと来たら、軍人というより中小企業の中間管理職のオヤジそのもの。立ち方一つなっていないし、銃器の扱いは素人以下だ。これでは、いくら凝った衣装を身に着けたって、軍人には見えない。

 もちろん、篠田監督にも責任はある。軍人の描き方など、ステレオタイプでリアリティがなさすぎる。また、普通に見れば売国奴である尾崎(朝日新聞記者)やゾルゲという人物を、好意的に描くというところに、大きな違和感を感じる。ジョン・レノンの『イマジン』を使うというのも、ちょっとなぁ……と思う。

 背景に使われたCGも浮きまくっている。せっかくお金をかけたシーンだからもったいなかったのか、見せびらかすようにダラダラその場面が続くのだ。CGは本来、それと気づかせないほど、さらっと使うのがスマートだ。特に、背景に使う場合は。

 アクションをメインにした映画では無いものの、そうしたシーンもよくない。具体的に言うと、リンチのシーンで、蹴りがまったく当っていない。あのテイクをよく採用できたものだと思う。足と相手の体が、30センチくらい開いているのだから。

 こうして列挙した各特徴について、私もいろいろ我慢して、広い心で見ていたつもりなのだが、やっぱりダメだ。あらゆるシーンがウソっぽく見えてしまう。すべてが芝居じみている。

 あなたが、自分はそんなの気にならないタイプだと感じていたり、ゾルゲ研究者だったり、篠田監督の大ファンだったりするならば、別に見ておいてもいいかとは思う。ただ、娯楽性も無いし、若いライトユーザーが気軽に手を出すには、非常にリスキーであると警告しておく。

前田有一

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