◆ゲームに熱中する夫と現実感が希薄な妻。お互いの領域に深く踏み込まないことでバランスを保っている。快適さの中のぎこちなさと物足りなさの中の安心感。夫婦を維持していくには、情熱や真実よりも、小さな嘘が必要なのだ。(40点)
同じベッドで寝ているのに性行為はなく、ひとつ屋根の下に暮らしているのにケータイで連絡を取り合う。自室にこもってゲームに熱中する夫、家事は得意だが現実感が希薄な妻。お互いの領域に深く踏み込まないことでバランスを保っている。快適さの中にあるぎこちなさと、物足りなさの中の安心感。この奇妙なふたりが同時に浮気相手を作り、あらためて自分たちの関係を見直していく。愛しているのに別れなければならない、愛していないのに壊したくない。夫婦という役割を維持していくためには、情熱や真実よりも、相手を傷つけない小さな嘘が必要なのだ。
IT企業に勤める聡とテディベア作家の瑠璃子は一見理想のカップルだが、どこかよそよそしい。ある日、瑠璃子は春夫という男と、聡は三浦という後輩とそれぞれ浮気をする。罪悪感を覚えながらも彼らは密会を続ける。
瑠璃子に話しかけられるとなぜかオドオドとして居心地が悪そうになる聡は、瑠璃子との肉体的な接触を避けているようだ。セックスレスになった経緯は語られないが、おそらく些細なきっかけでしばらくセックスしなくなり、別に不便に思わないままずるずると引きずった挙句、いつしか埋めがたい溝ができてしまい、もはや異性とは見られなくなってしまったのだろう。ふたりの間に流れる緊張とも弛緩とも感じられる濃密な空気をカメラは鋭角的に切り取っていく。
配偶者にないものを求めて浮気相手にのめり込む瑠璃子と聡。春夫を愛してると言いながら、「守りたいものに嘘をつく」と、聡との生活を捨てるつもりはない。聡と三浦も同様で、聡は離婚してまで三浦を選ぶ気はない。結局、ふたりとも浮気相手と別れ、何事もなかったかのように元のサヤに戻る。たっぷりと余白をとった映像はしっとりと落ち着き、清潔感があって美しいが無機質で、瑠璃子と聡の心を象徴する。ただ、あまりにも抑制のきいた感情表現は退屈をもよおさせるのに十分だった。
(福本次郎)