ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男 Part1 ノワール編 - 小梶勝男

◆ヴァンサン・カッセルが実在の犯罪王、ジャック・メスリーヌを熱演したギャング映画。Part1、Part2合わせて4時間を超える大作だが、複雑な男の半生を淡々と描いて見応えがある(73点)

 実在したフランスの犯罪王、ジャック・メスリーヌ(映画の中で本人は「俺はメリーヌだ」と怒っていたが)の半生を描くドラマ。Part1、Part2、2本合わせて4時間を超える大作だ。だが、4時間をかけた意味はあったと思う。冒頭、「一人の人間のすべてを描くことは出来ない」云々と字幕が出るが、これが本作のテーマだろう。メスリーヌの様々な面を描くことで、一人の男の複雑さ、矛盾した存在が表現されていて、そこにドラマとしての面白さがあった。

 Part1、Part2と2本に分かれているが、1本ずつ話が独立しているわけではない。Part1だけで話は終わらないし、Part2は完全にPart1の続きだ。本作にはどちらか1本だけ見るという選択肢はない。見るなら2本とも見るしかない。従って、2本に分けて語る意味はないのだが、公開が別々なので仕方なく1本ずつの批評を書く。

 1959年、アルジェリア戦争で上司に命じられ、初めて人を殺す経験をしたジャック・メスリーヌ(ヴァンサン・カッセル)は、パリに戻ると友人と共に強盗に手を染めていく。スペインで美女ソフィア(エレナ・アヤナ)と出会って結婚し、娘も生まれるが、銀行強盗に失敗して刑務所へ送られる。出所後は堅気になろうとするが、リストラされて再び悪の道へ。犯罪者の友人たちと家を出て行こうとするのを止めた妻は殴られ、メスリーヌの下を去る。一方、メスリーヌはバーで知り合ったジャンヌ(セシル・ド・フランス)とコンビを組んで銀行強盗を繰り返す。一時はカナダのモントリオールに逃げるが、そこで億万長者の誘拐に失敗、逮捕される。特別懲罰刑務所で散々に痛めつけられたメスリーヌだが、仲間の協力で脱出に成功する。

 副題は「フランスの社会の敵〈パブリック・エネミー〉No.1と呼ばれた男」だ。ちょうど来月から、マイケル・マン監督、ジョニー・デップ主演の「パブリック・エネミーズ」が公開される。あっちはデリンジャーだが、実在のギャングの半生を描いている点は同じだ。だが、印象はまるで違う。「パブリック・エネミーズ」が一種のヒーローものでドラマチックなのに比べ、本作は語り口が淡々としていて、ドキュメンタリー・タッチなのだ。

 メスリーヌの半生はストーリーを追うだけでも結構忙しい。何と言うか、行き当たりばったりという印象だが、それをあえて一つの切り口で解釈したり、整理したりせずに、多面性をそのまま描いている。だから、展開に面食らうこともある。メスリーヌには女に手を出さないという自分の中のルールがあるのかと思ったら、あっさり妻を殴るなど、一貫性がないのだ。メスリーヌを巡る人物も次々と登場しては、次々と消えていく。

 しかし、その一貫性のなさを淡々と見せることで、物語がリアルに見えてくるから面白い。「一人の人間の全てを描くことは出来ない」というテーマが、次第に浮かび上がってくる。

 アクション場面には手持ちキャメラが使われ、ニュース映像のような迫力がある。何せ銀行強盗を32回、脱獄を4回繰り返した男なので、その生涯を追うだけでもアクション場面だらけだ。

 Part1、Part2を含め、ジェラール・ドパルデュー、オリヴィエ・グルメ、マチュー・アマルリックなど、フランス映画のスターたちが次々と登場し、大作らしい華やかさがあっていい。主演のヴァンサン・カッセルはでっぷり太って、メスリーヌになりきる力演。写真でしか知らないが、本物のメスリーヌにも結構似ていたと思う。そして、何より女優たちがフランス映画らしくお洒落で良かった。Part1ではメガネをかけた凶暴な女犯罪者、セシル・ド・フランスがとても魅力的だ。

 「パブリック・エネミーズ」と比べ、本作は主人公を見つめる目線が大人だと思う。フランスらしいギャング映画だと言える。

小梶勝男

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