ジェイン・オースティン 秘められた恋 - 小梶勝男

◆英国の女流作家ジェイン・オースティンの、若き日の恋を描く。英国の田舎を表現した風景が美しく、衣装や美術が見事。アン・ハサウェイも好演していて素直に楽しめる作品(78点)

 ジェイン・オースティン(1775-1817)は「高慢と偏見」「エマ」などの恋愛小説で知られるイギリスの女流作家だ。生涯を独身で過ごしたが、その若い頃の「道ならぬ恋」をアン・ハサウェイ主演で描いたのが本作だ。

 18世紀末の英国ハンプシャーのオースティン家は貧しく、両親は娘のジェイン(アン・ハサウェイ)が裕福な地元の名士と結婚することを望んでいた。だが、小説家を目指していた知的で進歩的なジェインは、愛のない結婚に踏み切れず悩む。そこに、ジェインの兄の友人で、貧しいが魅力的なアイルランド人トム・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)がやって来る。二人は反発しながらも惹かれ合うが、トムとの恋は、家族や安定した生活を捨てることを意味していた。

 ジェインは一途に愛に生きるタイプではない。愛がなくとも安定した結婚生活を選ぶか、危険で冒険的な恋を選ぶか、かなり迷ってしまう現実主義者なのである。一方では知性があり、18世紀英国中流社会の伝統的な考え方には批判的だ。田舎の人々を軽蔑している部分もある。つまり、キャラクターとして余り突出したところがない。もちろんハサウェイが演じているので外見上は突出して美人なのだが、現代人でも十分に共感できる人物像になっている。

 それだけに、現実主義者ジェインが我を忘れてしまうような激しい恋が、とてもロマンチックだ。二人で駆け落ちする場面の高揚感も、途中で現実に気づいてジェインが家に戻る場面の寂しさも、生き生きと心情が伝わってきた。

 英国の田舎を表現した森や野原の風景が美しく、当時を再現した衣装や美術がいい。そして、アン・ハサウェイのジェインがとても魅力的だ。現代的な顔つきなので、最初はジェイン役には合わないのではと思ったが、意外にもピッタリとはまっていた。「キンキーブーツ」(2007)のジュリアン・ジャロルド監督の演出も悲壮に過ぎず、軽くなり過ぎず、なかなかいい。

 ただ、日本の観客にとって、ジェイン・オースティンがどこまで知られているのかは疑問だ。18世紀的な古い道徳観念に反発しながら、極めて18世紀的な「堅物」というジェインのイメージがあってこそ、「秘話」としての恋物語の面白さが増すのだと思う。最近多い有名人の伝記映画は、その人物がどれだけ知られているか、観客にとってどれだけ身近な存在なのか、というのが意外に重要だと思う。

小梶勝男

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